なら、致し方ない

「仮にヒツギが勝負を挑んできたら、勿論それ相応の物をもらわないと受けようとは思いませんね」


自分に試合を申し込みたいのであれば、対価となる物を用意しろ。

そんなティールの発言に対し……ラストとアキラも、不遜で己の評価が高過ぎる、とは思わなかった。


(当然と言えば当然だな。ヒツギがあの……巨人族のハーフ、ゴルドラだったか? あれと同じく、これまで絡んで来たバカと違うのは解るが、それでもマスターの方が実力は上だ)


(ただBランクモンスターをソロで倒すだけではなく、確かダンジョン内でモンスターが大量発生する現象……モンスターパーティーだったか? あれを体験し、何割かのモンスターをソロで討伐したことを考えれば、当然ティールが支払われる側ではあるな)


二人ともヒツギが口だけのクソバカ自信過剰若手ではないことは把握している。


ただ、ティールが無駄に自信と度胸はある青年に負けるとは思えない。


「因みにマスター、どれぐらいの対価を貰おうと考えてるんだ?」


「ん~~~~……そうだな~~~。大体、白金貨数十枚か、それに相当する何か、かな」


「「っ!!」」


ティールの実力は勿論評価しているが、あまりにも高過ぎないかと思ってしまった二人。

だが、その訳を聞き、直ぐに納得。


「高いと思う?」


「…………そう、だな。マスターには申し訳ないが、少々高いと思ってしまった」


「へへ。まぁそう思うよな。でもさ、あいつ俺のバカにしてただろ」


「それはそうだな……そうか。そういう事なら、致し方ないか」


「そうだろ。致し方ないだろ」


仮に、ヒツギが初対面であるにもかかわらず、いきなりティールに対して真剣に自分と一対一で戦って欲しいと申し込み……尚且つ、まだ少年であるティールに対してしっかりと頭を下げていた。


であれば、白金貨数枚でも…………金貨数枚であっても、了承していた可能性はある。


ただ、ヒツギは思いっ切りティールをイラつかせてしまった。

ティールとアキラの考えのすれ違いもあった影響でイラつき期間が延びたとはいえ、元々の原因はアキラにそういった人物がいると知ったにもかかわらず、サクッと諦めなかったヒツギにある。


「あの男としては、普段通りの行動かもしれないけど、ってそれはそれで宜しくないと思うけど……とりあえず俺がヒツギの態度に対してどう思うとも、それは俺の勝手だからね」


最初の最悪が過ぎる出会いがなければ、もっと安くても構わないという思いに嘘はない。


なんなら、訓練場で訓練を行っている際に自分と模擬戦をしてくれないだろうかと声を掛けられれば……対価など要求せず受けてた可能性は十分にある。


「俺もあの男の態度には良い気がしなかった」


「私も同じだ……しかしティール、そこで断ればまた面倒な事になると思うが」


逃げるのか、卑怯者!!!!! と言われるかもしれない。


ティールとしては謝意も込めてそれ相応の対価を用意しろという話なのだが、ヒツギがティールに取った態度に対して……本人に全く悪気がないというパターンもある。


本当に悪気がないと、何に対して謝れば良いのか解らない。

友人知人たちからここだと指摘されても、本人に悪気が無ければ、何故自分が謝らなければならないのかという葛藤が湧き上がる。


ティールは探り合いなどに関して百戦錬磨という訳ではないが、自分が行った行為や態度に対して本当に悪いと思っていない謝罪ぐらいは見破れる。


「その時は、ヒツギが所属してる組織を利用すれば、こっちの言う事に納得せざるを得なくなると思います」


ヒツギはただ冒険者ギルドに所属している冒険者ではなく、あるクランに所属している。


「それはそれでまた何か言ってくるかもしれませんけど、その時は口先だけの男なんだと思わせてもらいます」


ただ果たしてティールがそう思うだけなのか、他の冒険者たちにもその認識が広まるのか……それはティールにも解らない。

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