巨岩の重さ

「……見つからないなぁ」


ティールたちが雷鳥を探し始めて、既に十日が経過していた。


その間、三人は二十一階層から二十五階層を行ったり来たりしていた。

十日間……ティールたちにとって全く暇な十日間というわけではなかった。


多数のCランクモンスターと遭遇し、なんならBランクのモンスターにも遭遇していた。

ただ、ティールは絶対に雷鳥とは自分が戦うと決めているので、その相手は二人に譲った。


「そうだな。思ったより見つからないな」


探索している時間は朝方から日が暮れるまでと、他の冒険者たちと変わらないが、三人は他の冒険者たちと比べてスタミナが多く……強い。


一般的には苦戦するような五体以上の群れで活動しているCランクモンスターたちであっても、ティールたちであれば特に苦戦することはなく、寧ろ自分たちに向けられる野性の殺意を楽しみながら戦い、勝利を収められる。


「ティール、次に遭遇したBランクモンスターとは、ティールが戦うか?」


この十日間で複数のBランクモンスターと遭遇し、既にラストとアキラは十分強敵と言えるモンスターと戦え、非常に満足していた。


ティールもモンスターと戦っていなくはないが、二人ほど満足感が得られる戦いには巡り合えていない。


「…………いや、大丈夫です。俺は、雷鳥と戦うんで」


「そうか。分かったよ」


既に十日間も探索してるが、アキラは当然ながら全く飽きていない。


山岳地帯で強敵と戦える機会も中々得られない経験ということもあって、まだまだ探索意欲が落ちる気がしない。


「ん?」


「どうした、ラスト」


「今……微かに人の悲鳴が聞こえた気がする」


「人、か。とりあえず、見に行くだけ見に行くか」


聞こえてしまったからには仕方ない、と言わんばかりの顔で悲鳴が聞こえた方へと走る。


数十秒後、ラストの耳が感知した通り、数人の冒険者たちがモンスターに襲われていた。


「黒い、鹿……確か、ダーディーディアスか」


黒い体毛と大きな角を持つ大鹿。


「おい! 助けはいるか!!」


その圧倒的な攻撃力で冒険者たちの反撃を返り討ちにしていた。


「た、助けてくれ!!!!」


「オッケー」


ティールはどう戦うか、誰が戦うのか二人に相談することなく、単独でダーディーディアスに向かって走り出した。


そんなリーダーの行動に対し、二人は特に思うことはなく……先程までダーディーディアスと戦っていた冒険者たちをティールの邪魔にならないように一か所に誘導し始めていた。


「別のモンスターが割り込んでくるかもしれないから、一か所に集まっていろ」


「あ、あぁ。って、あんたらは戦わないのか!!??」


「リーダーがソロで戦おうとしてるんだ。なら、俺たちが手を出す必要はない」


見捨てる気か!? と叫ぼうとした青年は……数秒後、目の前で起こった光景を見て、何故竜人族の男がこれほどまでに落ち着いているのか、理解させられた。


「ッ!!!!!」


「良い、突進じゃないか」


ティールは身体強化のスキルを使い、魔力を纏い……ダーディーディアスの角を掴み、正面からタックルを受け止めた。


(なっ、あ……う、嘘だろ)


青年は顎が外れそうなほど口を開き、驚き固まった。


「ッ!!!!!!!!!」


掴まれた。

その事実に驚きこそしたダーディーディアスだが、直ぐに頭を振り上げ、ティールを上空に投げ飛ばそうとする。


しかし……動かない。

先程まで戦っていた人間よりも小さい相手が、巨大な岩の様な重さを感じさせる。


「ッ!!!!!!!!!!!!!」


再度振り上げようと力を込めるも、一向に上がる気配がない。


「ぃ、よいしょッ!!!!!!!!!!!」


「っ!!!!!!??????」


掴んだ角を振り上げ……地面に叩きつけた。

結果、ダーディーディアスの四肢に強烈な衝撃が走り、脚の骨が砕けた。


「終わり、だっ!!!!」


どれだけ根性があろうとも、いきなり脚を砕かれては、咄嗟に動くことも出来ず……ダーディーディアスは為す術なく、ティールの手刀を食らうしかなかった。

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