最低のナンパ
「世間一般では、奴隷を連れている……それだけで、悪と見える者もいるのでしょう」
「……相手が悪だからこそ、何を口にしても許されると思っている、という事か」
悪であれば、どんな罵詈雑言を吐いても構わない。
アキラは……立場上、庶民たちよりも多くの件に関して、一歩踏み込んだ情報が耳に入ってくる。
決して数は、多くない。
しかし、これまで生きてきた中で、本当にその人物は何も知らない者たちから一方的に暴言を吐かれても良いのかと……大きな大きな、重く深い疑問を持ったことがあった。
「あの女も馬鹿だったな。俺は……マスターの奴隷になったからこそ、再び言葉を口に出来るようになった。戦える様になった。どんな奴隷よりも、恵まれていると言って過言ではないだろう」
「私は彼を奴隷という立場から救う。あの女の冒険者は、そこだけしか……自分が物語の主人公になった部分しか見ていなかったんだろうね。そんなラストに、あんな誘い方はぁ……ねぇ」
「あぁ、そうだな。ナンパの仕方としては、最低も最低だ」
「ふ、ふっふっふ! 確かに、あり得ないぐらい下手くそなナンパだったね」
ティールはその時点で、同世代の者たちを完全に抜き去る強さを持っていた。
ただぶつけられる怒りに対して負の感情が湧くだけではなく、冷静に考えられる頭を持っていたこともあり……ラストを奴隷から解放しろと口にした女性冒険者が、あまりにも滑稽である意味面白い人間に見えてしまった。
「でもさ、もしかしたら……ラストが奴隷じゃなくても、何かしらケチな理由を付けて、ラストとパーティーを組もうとしてたかな」
「ないとは言えないが、あの時点でマスターは実力を示していた。であれば、あの女のもケチを付けられるところはないのではないか?」
「……アキラさんはどう思う」
「話を聞く限り、恐ろしく教養のない冒険者。であれば、実力を知っていたとしても……何かしらの理由を付けて、引き剥がすことが無理なら、入り込もうとしていたかもしれないな」
ティールは本当にラストが同業者でそういった人物を見つけたのであれば、パーティーに入れるのもやぶさかではない。
もし……ラストがその者と共に生涯を遂げたいと言われてしまったら、奴隷の契約を解除し、ラストの幸せを願うだろう。
「あり得そうっすけど、個人的に弱い人に入り込まれてもって感じですね」
「そうだろうな。何かに特化していなければ、ティールたちの足手纏いになるのは確実だろう」
ティールとラストに足りないところは何か。
それを冷静に考えた時、真っ先に思い浮かぶのは回復手段。
しかし、ティールが一応使えないことはなく、なんならティールはモンスターから奪ったスキル、再生によって体の一部が欠損しても、元通りにすることが出来る。
タンクとしての役割はラストが果たし、遠距離ディーラーの仕事はティールが果たす。
二人という超少人数ではあるが、役割的に足りない部分は……殆どなかった。
(切断された腕や脚をくっ付けることが出来る、もしくは欠損した部位を再生することが出来……尚且つ、強力な防御結界を瞬時に張れる。といった具合の技量を持つ者がいれば、ティールのパーティーに正式に加入できるか?)
アキラは……二人の強さに敬意を持っていることもあり、二人のパーティーに加入出来る人材について考えるのが楽しくなっていた。
ただ、そこでふと、先日の一件を思い出した。
「ところでティール、もしヒツギから何かを申し込まれたら、どうするのだ」
「……言いたい事は解ります。あぁいった奴は、自分の感情を最優先して、こっちの考えとか思いっきり無視して勝負を挑んできたりしますからね」
なんとなく予想は出来ている。
その為、既にティールはそうきた時の答えを用意していた。
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