教育の差?

丸一日訓練を行った翌日、三人ははいつも通りダンジョンへと向かっていた。


「ねぇ、あの人たちって」


「あぁ……どう見てもあの組み合わせはそうだな」


「あいつら、昨日ギルドの訓練場にいた……よな?」


「俺らの見間違いじゃなかったら、訓練場で模擬戦ばっかりやってた筈だ」


「だったらよ、なんで今日ダンジョンに潜ろうとしてんだ?」


「そんなの……俺らが解るわけねぇだろ」


ダンジョンの入り口付近で足りないメンバー、自分を売り込みたい者……丁度ダンジョンに入ろうとしていた冒険者たちの視線が大量に向けられていた。


(今回は雷鳥に遭遇できると良いなぁ)


そんな中、三人の中では割と視線を向けられることに敏感なティールだが、今回は全く視線を気にせずダンジョンの中へと入って行き……二十一階層に転移。


「そういえば、もう声を掛けられないようになったな」


「ん? 確かに……誰も声はかけてこなくなったね。ラストが予想した通り、ギルドでの訓練を行った効果があったのかな」


強者と組めば、自分がダンジョン内で死亡するリスクが下がる。


ダンジョン探索はそこまで単純な話ではないのだが、それでも強さは死のリスクを下げる一つの要因。

よほど性格が終わってる相手でなければ、ティール達三人と臨時のパーティーを組みたいと考える。


しかし、三人は先日、訓練場で自分たちの実力をそれなりに使いながら模擬戦を行っていた。


「二人だけでダンジョン探索をしてた時は、よく声を掛けられていたのか?」


「そうだった……気がしますね。三人でも少し少ないですけど、二人でダンジョンに潜るのは基本的に超危険ですからね」


ティールとラストが前回探索していたダンジョン、森林暗危は一階層からDランクのモンスターが出現する可能性がある。

その為、青年と少年二人だけで探索するのは非常に危うい。


「そういえば、あの時だったか? バカが俺たちに絡んで来たのは」


「バカ? …………数が多くて、どのバカか思い出せないな」


「それもそうか。ほら、あれだ。マスターから俺を引き抜こうとしたバカだ」


モンスターの襲撃警戒を二人に任せ、いったいどんなバカなのか……記憶を掘り返していくと、どんなバカの事を言ってるのか思い出す。


「いたな、そんなバカ。けどラスト、そのバカは森林暗危がある街じゃなくて、えっと……確か、コボルトとオークが手を組んでる集団を潰そうとしたら、最後にリザードマンの群れが襲撃してきた時だよ」


「リザードマンジェネラルとスカーレットの時だったか」


「ふむ。そのジェネラルとスカーレットの話は前に聞いたが、引き抜きと言うのはどういう事だ?」


当時、一人の女性ルーキーが行った事を話すと、アキラは怒りを通り越して完全に呆れていた。


「……それは真なのか?」


「真ですね~。俺もとりあえず驚いた後、アキラさんと同じくそいつの要件に対して呆れましたよ」


現在、ラストはティールと共に行動を始めてからどんどん戦闘力を上げ、今ではソロでBランクのモンスターを討伐出来るほどの強さを得ていた。


勿論、これまで討伐してきたモンスターの素材を使った装備品があるから、というのもあるが……強化系のスキルや竜化のギフトを使用すれば武器を使わずともBランクのモンスターと渡り合うのは不可能ではない。


そんなラストの現時点での戦闘力。

そしてこれからの伸びしろを考えれば……例え対価を用意して引き取ろうにも、白金貨数枚程度では話にならない。


「ラストを対価なしで……ただ奴隷という立場が可哀想云々という私情で………………教育による考えの差、と思うべきなのだろうか」


アキラからすれば、考え無しにも程がある要件の押し付け。


「教育の差、ですか。その点に関しては、俺はそれなりに恵まれてましたね」


一人の賢く優しい師と、もう一人の……今思えばまだ子供相手に教える事ではないのでは? と首を捻りたくなるような事まで教えてくれた、実力は確かな師が頭に浮かび、何となく感謝の念を送った。

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