ダメ押し

「それじゃあ、そろそろ昼飯にしようか」


「あぁ、そうだな」


十二時より少し手前で、三人は模擬戦がメインの訓練を終了。


「……マスター、昼飯はギルドの酒場で食べないか」


「なんでだ? いや、別に構わないっちゃ構わないんだけど」


今現在、そこまで美味い飯を食べたいという気分でもないため、冒険者ギルドに併設されている酒場で食べても問題無い。


ただ……午前訓練の間、全く絡まれなかったとはいえ、依然としてティールとしては警戒を続けたい場所であった。


「訓練中の間、バカが一人も絡んで来なかっただろ」


「確かにそうだな」


「マスターの戦いっぷりが、あいつらが事実を突き付けられたのだろう。だからこそ、ダメ押し? をする必要がある」


「ふむふむ、なるほどな。理解出来たぞ、ラスト」


アキラはラストが何をしたいのか完全に把握。


(そこまで意味があるのか? 模擬戦をする光景を見せたことで、確かに今回はバカが絡んで来なかったけど…………まっ、物は試しか)


ティールはラストの提案を承諾。


そのままギルド内に併設されている酒場へ向かい、適当に腹が満たされる料理を注文。

午後も訓練を行うため、エールは夕方に持ち越し。


「それで、ティール。これからはどうする。もう少し、二十一階層から三十階層を重点的に攻略するのか?」


「そうですね……個人的には、雷鳥? と遭遇出来ればなと思ってます」


雷鳥とは、名の如く雷属性の鳥系モンスター。


二十一階層から二十五階層に出現するモンスターの中では、出会ったらテンションがガタ落ちしてしまう部類の怪物。


雷という攻撃の特性上、上手く防がなければ全身にダメージが渡る。

そして鳥系モンスターであるため、当然ながら空中から攻撃を行える。


故に、探索する冒険者たちとしては……討伐出来れば、素材は高く売れるので嬉しい。

しかし高確率で敗走するため、できれば出会いたくない。


「Bランクのモンスターだったな。やはり、ゲイルワイバーンより強いか?」


「明確に強いってことはないんじゃないかな。ゲイルワイバーンは完全に速さと……鋭さ特化? みたいな感じだっただろ。雷鳥は……速さは劣るだろうけど、絶対に遅くはないだろうな。後、攻撃力がかなりヤバいらしい」


「……マスターがこれまで戦ってきた強敵と比べるのであれば、ブラッディ―タイガーやスカーレットリザードマンあたりの攻撃力か?」


「それぐらいの相手、って思っても良いかな」


十分な強敵である。


スカーレットリザードマン戦でティールは片腕を切断されるという犠牲を払い、討伐に成功した。


ブラッディ―タイガーに限っては、まだ冒険者登録して一か月も経っていない頃の戦いではあるものの……討伐したと同時に、体力魔力ともに尽き果ててぶっ倒れた。


「雷鳥が現れる階層は、二十一階層から……二十五階層だったな。では、翌日からはその辺りを重点的に探索しようか」


二十六階層から三十階層の樹海エリア……三十一階層から四十階層の方が強く、ずる賢いモンスターなどが出現するが、アキラの表情に全く不満はなく、寧ろ楽しそうな笑みを浮かべていた。


(これは……多分だけど、また良い感じの転移トラップを踏めたら、って考えてるのかな)


ティールの予想はドンピシャであり、アキラは二十一階層から二十五階層に出現するモンスターだけではなく、先日……普通の冒険者たちが聞けばドン引きする行為である、自ら転移トラップに引っ掛かるという行動を取り、モンスターがうじゃうじゃと現れる部屋へ跳んだ。


(でも、ワクワクするのは……解らなくはないかな。できれば、今度は俺がゲイルワイバーンみたいな奴と戦ってみたいし)


その後も三人はこれが当たり前と言わんばかりの表情で、ダンジョンに出現するCランクやBランクのモンスター、三十階層や四十階層に出現するボスモンスターについて話し続け……ラストの計画通り、Dランク以下の者たちはティールに対してバカにする様な気持ちが一気に霧散していった。

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