下手ではないだろ

「ふぅ~~~~、よし、やるか」


「あぁ、そうだな」


軽い準備運動を終えた三人は早速模擬戦を開始。


ティールは珍しく大剣を持ち、ラストはいつも通り大剣を使う。

ラストが大剣なのは解る……しかし、何故ティールが大剣を? と言いたげな顔を浮かべる周囲の冒険者たち。


「二人とも、程々にな」


その言葉が合図となり、相手の出方を見ることなく……二人とも前に出て、斬り結び始めた。


「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」


木製とはいえ、ぶつかり合う音によって使用者の腕力の強さが解るというもの。


最初のぶつかり合いは互角。

そこからは押して押されてのやり取りが繰り返される。


「お、おい……なんだよあれ」


「あのガキ、人族じゃねぇのかよ」


「あ、あっちの竜人族の奴が、あのガキに合わせてるんじゃねぇのか?」


パーティーメンバーであるラストが、わざわざティールの身体能力に合わせている。

そう考えられれば……彼等のプライドも傷付かなくて済むだろう。


「ありゃあ、どっちもスキルは使ってねぇし、魔力も纏ってねぇな」


「みてぇだな。あっちの竜人族の兄ちゃんは解っけど、あっちの坊主……マジでナニモンだ? もしかして純粋な人族じゃなくて、鬼人族か竜人族……巨人族、はねぇか。ドワーフとのハーフなら……肌がもうちょい焼けてっか」


「純粋な人族であれ、ね…………いったいどんな修羅場を潜り抜けて来たのかしら」


だが、プライドはあれど、現実を受け入れられるだけの器量があるベテランたちは、素直にティールが明らかに外見相応の者ではないと認めていた。


そして先程までティールがパーティーメンバーによいしょされてるだけだと口にしていたルーキーたちも……動きの速さを見せ付けられ、現実を受け入れざるを得なくなっていた。


両者の力が互角に見える……そういった戦い方は、器用な者が相手すれば出来るだろう。

しかし、速さに関しては、ごまかしようがない。


「ふ、ふざけんなよ……なんだよ、あれ」


速さに自信があるルーキーの口から、悔しさが零れる。


ティールはただの訓練であるため、マジックアイテムなど一切装備してない。

ルーキーたちには二人がスキルを使っているか否かなど解らない。

それでも……彼は、全力で動く自分よりも、目の前のティールの方が速いと……認めざるを得なかった。


「ぐっ!! っ……大剣でも、それが出来るんだな」


「まだまだ実験段階? ではあるけどな」


最後の最後、ティールはラストの大剣を宙に巻き上げ、決着。


本当の戦いであれば、ここから拳や脚を使ってまだ戦えるが、これが模擬戦であることをラストは忘れていなかった。


「それじゃ、次はどうする?」


「……ラスト、私と戦ろうか」


「良いだろう」


「っと、一つ提案なんだがラスト、木剣の二刀流はどうだ」


「二刀流? …………」


アキラの眼を、顔を見れば冗談で言ってるのではないと解る。


それでも……ラストは素直にその提案通り、二刀流で戦ってみようとは思えなかった。


「技術面に関しては、少しずつ努力していこうとは思っているが、俺はマスターやアキラ、お前ほど器用ではない」


「かもしれない。しかし、やはり君の一番の武器はその腕力だ」


斬るという動作は、腕力だけで行えるものではない。

それでも、速さの要因となる力でもある。


「ラスト、確かにお前は俺やアキラと比べたら、器用さとか技術面、そういった部分では俺たちの方が上だろう。でも、お前は戦闘が下手な訳じゃないだろ」


「…………ふむ、自分で言うのもあれだが、下手ではないだろう」


「だろ。それにこれは実戦じゃなくて訓練だ。色々試してこうぜ」


「ふっふっふ。それもそうだな……しかしアキラ、あまり速攻で終わらせてくれるなよ」


「安心しくれ。私も解っている」


この後、ラストはアキラの提案通り、木剣の二刀流でアキラと模擬戦を行った。


結果としてその模擬戦ではアキラが勝利を収めたが、何度か冷や汗をかく場面があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る