合法的に

大きな収入が入り、いつもよりお高い店で料理を満腹になるまで食べた翌日、三人は前回と同じく、一日だけ休日を

挟んだ。


「マスター、今日はどうする? 先日と同じく、街を散策するか?」


「…………どうしようかな」


前回と同じく、初めて訪れた街を散策。

それは街から街に転々と移動するティールの楽しみ。


この世界には……部屋の中で時間を潰せる娯楽が、あまりにも少ない。


「? 散策には行かないのか」


「ありと言えばありなんですけど、昨日の一件もあって、もしかしたらと思ってしまって」


またヒツギに絡まれようとも、もう遠慮なく対応出来る。

それが解った今、全くもって怖くも面倒とも思わない相手。


しかし、それが何かの切っ掛けになる可能性は捨てきれない。


「ふむ、ではギルドの訓練場にでも行って体を動かすか?」


「ラスト…………いや、別には悪いことではないんだが、それはそれでなぁ……」


「ティール、ラストの言う通りギルドの訓練場で今日一日を過ごすのであれば、そこで起こった面倒事はその場で…合法的に解決出来るぞ」


アキラの言葉に、ティールと……訓練場で訓練をしないかと提案したラストも、なるほどといった表情を浮かべる。


「それは、悪くないですね」


「そうだろ。とはいえ、それが面倒の切っ掛けに繋がることにはなるかもしれないが……苛立ちが溜まることなく、その場でスッキリすることは出来る筈だ」


「…………ですね」


ティールは、正直諦めている部分がある。

なるべく無駄な争いは起こさず、同じ冒険者たちとは……ゴミ屑以外とは仲良くなりたい。


その気持ちは今でも変わりないが、結局自分がこの先、面倒が近寄ってこなくなることはないのではと。


(……なんて言うか、これ以上考えても仕方ないこと、なのかな)


これまで、自分たちは全く悪い事はしてない。ただ、向こうから勝手にやって来て、面倒事に発展したのだと。


「それじゃ、朝食を食べ終えたら訓練場に行こう」


朝からがっつり朝食を食べ終えた後、三人は決めた通りギルドの訓練場へと向かう。


いつもより多くの視線が向けられていようと、気にせず向かう。


(ぬっ……やっぱり、ここら辺はダンジョンを持つ冒険者ギルドだよな~)


以前滞在していたダンジョン、森林暗危を保有する冒険者ギルドでも同じ体験をしたことがある。


バラつきはあれど、訪れる冒険者たちはダンジョンに潜むモンスターの素材、宝箱……攻略することで得られる名誉を狙いに向かう。


とはいえ、一度に全員の冒険者たちがダンジョンに潜るわけではない。


ダンジョンの難易度は階層数が全てではない。

階層上の問題で十五層でボスと戦う事になるとはいえ、森林暗危のラスボス……アサルトレパードは、二つ目のボスとして登場するには、珍しくランクが高く……部屋の環境もアサルトレパードの強味を活かすのに適している。


だが……それでも階層数が多いダンジョンを攻略したという事実は、冒険者たちにとってより大きな実績となる。


その為、イガルディスの冒険者ギルドよりも多くの冒険者たちが集まっている。


「……全員倒せば関係無い、そうだろマスター」


「それはそうなのかもしれないけど、一応俺たち他の冒険者たちと喧嘩しに来たわけじゃないからな、ラスト」


「あぁ、それは解っている。ただ……こうも視線を向けられると、な」


ダンジョンに潜るつもりはなくとも、ギルドに訪れる冒険者の数が他の街よりも多くなる。


結果、先日のヒツギやそのパーティーメンバーとの一件もあって、ギルド内にいる同業者……だけではなく、職員たちからも視線を向けられることになる。


(ったく。とはいえ、都合の良い考えかもしれないけど、ラストがやんのかオラ? だったらかかってこいや!! ってな感じのオーラに勝手に委縮してくれたら有難いな)


仕方ないと受け入れつつも、やはり根っこは変わらないティールだった。

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