解り易い

「そういう訳なんで、出来ればこれからは声を掛けないでくれると嬉しいです」


一生声掛けてくんじゃねぇ!!!! と怒鳴らない、完全にシャットアウトしない点に、周囲のベテラン達はティールから大人の余裕を感じた。


「それじゃ、買取金額も受け取ったし、行こうか」


「あぁ、そうだな」


「マスター、今日は少し良いところに行かないか?」


「懐がかなり暖まったし、ありだね」


もう完全にヒツギを置いてけぼりにした……と全員が思ったところで、ぐるりとティールが首を動かし、ヒツギの方に顔を向けた。


「あっ、一応言っておきますけど、多分……多分ヒツギさんたちはそんな事しないと思いますけど、仮にダンジョン内や街中で何かしてきてたら、立場とか関係無しに対処するので」


あえて……あえて、ティールはここで戦意や圧を零すことなく、淡々と告げた。


「では、お騒がせしました~~」


こうしてティールたち三人がギルドから出て行った後……ギルド内には地獄みたいな空気が残った。



「~~~~♪」


「鬱憤は消えたか、マスター?」


「勿論だよ!!! あのクソ黒髪、本気でぶん殴ってやろうかと思ってたからな」


結果として物理的には殴らなかったものの、精神的にぶん殴ることに成功したティールは、溜まりに溜まっていた鬱憤が一気に消化された。


「ティールは、あそこまであの男の事を嫌っていたんだな」


「え、あ、まぁ……そうですね。なんと言うか、人の話ちゃんと聞いてんのかこいつ、って感じだったんで」


一応その気持ちもなくはないが、他の気持ちの方が多いため、全ての理由は語れない。


「それなら、もっと早く伝えてほしかった……というのは、無粋か」


「いや、そんな事ないですよ」


二人の空気を見て、じれったいと思ったラストは、二人の心の内は既に察している為、サクッと両者の気持ちをバラした。


「アキラ、マスターはお前は現在自分たちのパーティーメンバーだが、お前の交友関係を縛りたいとは全く考えていない。加えてマスター……アキラは、あなたがパーティーのリーダーだと認識しているからこそ、あなたに迷惑を掛けないようにと考えてあの男にどう対応すれば良いかと迷っていた。


「「っ!!!」」


ズバリ心の内を言い当てられた二人は、何故そこまで的確に!? といった驚きの表情を浮かべるが、ラストからすればティールはある程度付き合いがあり、アキラも解り易い性格をしていることもあって、容易に言い当てられた。


「違うか、二人とも」


「な……なんでそこまでピッタリ言い当てられるんだ、ラスト」


「なんでと言われてもな……マスターの仲間だからな」


「ラスト、それなら何故私の心の内も?」


「それはアキラが解り易い性格をしてるからだ」


「そ、そうか……」


口調から、バカにされているとは思わないものの、何故か心にナイフを投げられた感覚がしたアキラ。


(それにしても、ティールはそんな事を考えていたのか……気遣いのレベルが、完全に歳相応ではないな)


この時、アキラはティールにそこまで自分に気を遣わなくても良いと伝えようとしたが……止めた。


今ここで自分が伝えたとしても、何だかんだで自分に気を遣うティールの光景が目に見えていた。


(……であれば、その度に私が思った事をそのまま言えば良いだけだ)


ティールのパーティーに参加させて貰っている立場なのだが、リーダーであるティールは自分の友好関係を縛りたくはない。

その気遣いには素直に感謝し、なるべく自分が感じた事を率直に伝えようと決めた。


「まぁ、当面の面倒は消えたんだ。マスター、アキラ。席が埋まってしまう前に、良さげな店を探そう」


「あ、あぁ。そうだな」


一応ティールが二人に何が食べたい? と尋ねたが、ティールも含めて満場一致で肉だった。

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