すっかり忘れていた

「そういえば、ティールはロングソード以外の武器を購入しないのか?」


先日、アキラはディレッドビートルの素材の一部を貰った。

いずれこれを何かしらの素材に使おうとは決めている。


今更ティールとラストにつき返すようなことはしない。


だが、それはそれとして、何故ティールがロングソード以外の武器を使わないのか気になっていた。


「なんでですか?」


「ティールはロングソード以外の武器も使えるだろ。であれば、ロングソード以外の武器も、一級品の物を持っていても良いのではと思ってな」


一応ティールは遊び程度に、ジンから習ったことがある。

加えて、これまで奪って来たスキルのことを考えれば、寧ろロングソード以外の武器に関して、一流レベルの武器を常備しないのは……アキラの言う通り非常に勿体ない。


(……アキラさんの言いたい事はあるけど、ぶっちゃけロングソードを除くと一番使える武器は魔法か……もしくは体術…………じゃ、なかったな)


最近全く使っていなかったため、ティールはあるスキルの存在をすっかり忘れていた。


(爪撃があったな。スキルレベルだけなら各属性魔法や体術より、あれの方が高い)


体術に混ぜて使えるスキルではあるが、それでもモンスターを倒して奪い続け、強化してきたスキル。


モンスターや盗賊を殺して奪ったスキルを使うことに躊躇いがある訳ではない。

ただ……ここ最近は、本当にその存在を忘れてしまっていた。


「私の故郷には、武芸百般という言葉がある。ティールはそれを目指せる素質があると思うんだ」


(武芸、百般……剣とか槍とか、なんでも使えるって意味?)


(武芸百般という言葉がどういう意味なのかは解らないが、そういえばマスターは殺した……倒したモンスターのスキルを奪えた筈…………まっ、わざわざアキラに伝える必要はないか)


ナイス判断を行ったラスト。

ティールはアキラの事を信用はしているが、奪取に関してはまた別問題。


「そう、ですかね? 一応前探索したダンジョン、森林暗危の探索時に手に入れた宝箱の中に入っていた武器とかは保管してますけど」


「そういえばマスター、偶にあの武器を使っていたよな」


「あの武器? あの武器って…………あぁ、あれの事か」


これまで自分が使ってきた武器の記憶を掘り起こし、ラストがどれの事を指してるのか把握。


「ロングソード以外のメイン級の武器があるのか?」


「いや、全然メイン級の武器ってわけじゃないんですけど、ほら……この前俺たちを襲って来た男女がいたじゃないですか」


「勿論覚えてるぞ」


「実は、その前に襲って来た、多分同じ組織に属してるであろうメンバーが使ってた鎌を実戦で使ったことがあって」


「か、鎌……鎌というと、こんな形をした武器、か?」


両手を使ってジェスチャーで鎌の形を伝えるアキラの姿に……ティールは口元が緩みそうになり、そんな主人を見て色々と心配し、迷うラスト。


「そんな感じの武器です。とはいえ、本当に何回か使った程度でしたけどね。生物以外の存在をすり抜けることが出来るんですよ」


「な、なるほど。そんな効果が付与されているなら……まさに初見殺しと言える武器だな」


「鑑定のスキルを持っている相手にはバレてしまいますけどね」


「だが、仮に相手がその効果を解っていたとしても、すり抜けるのかそれともすり抜けずに斬りつけてくるのか、二択を押し付けることができる」


「っ、それはそれでということになりますね」


「そういう事だ」


知られているのであれば、それはそれで気にする必要はない、寧ろその思考を利用すれば良い。

そんなアキラの考え方にティールだけではなくラストも感心していた。


(効果が解れば、絶対にすり抜けの効果を使用して来ると予想するだろう。であれば、その考えを逆手に取ることもできる……おそらく、マスタ―も同じことを考えているな)


主人の本気で楽しそうにしている笑顔を見て、思わずラストも口端が緩む。

しかし次の瞬間、ラストは直ぐに表情を正し……ある方向へ意識を向けた。

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