色々と読む

「……なぁ、さっきラストかアキラに強い視線を向けられていなかった?」


「俺には向けられていなかったな。おそらく、アキラに向けられていたものだと思うが」


「…………そうだな。私、かもしれないな」


ギルド内で自身に向けられていた強い視線には気付いていたアキラ。


顔には……あまり嬉しくはない色が浮かんでいた。


「? そんなに不快な視線だったんですか?」


「いや、そういう訳ではないんだ……ただ、少し覚えがあってな」


覚えのある視線。

本人は不快ではないと口にするも、明らかに表情は良くなかった。


(……そういう、ド変態な視線を向けられてた? けどド変態な視線なら、普通に不快って言うか)


何故アキラが困った表情を浮かべているのか、中々解らない。


(………………っ)


主人が気付かない中、奴隷であるラストは心の中でこれではないか? と七割方確信を持てる理由が浮かんだ。


(そうだとしたら…………今、ここで思い浮かんだ内容を確認する必要はないな)


結局ティールはそれらしい理由が思い付かず、ラストはそれらしい理由が思い浮かんだものの……色々と読んでアキラに確認を取ることはなく、その話題に関しては終了した。



「おはよう、ティール。ラスト」


「おはようございます、アキラさん」


「おはよう」


ダンジョンから戻って来た翌日、三人は普段よりもやや遅れ気味で宿の食堂に降りて朝食を食べ始めた。


「今日はどうするんだ?」


「ん~~~……ぶらっと、散策でもどうですか?」


まだ若干頭が寝坊助状態のティール。


(……これは、俺が気を利かせた方が良い場面なのか?)


散策は散策である。

しかしティールは……まだアキラに対して、そういった気持ちがゼロという訳ではない。


その思いが叶うことはないと解っていても、二人で街を散策したというのは主人にとって良い思い出になるかもしれない。


(待てよ。そもそもマスターが俺とアキラにダンジョンの地図や情報の買取を頼んだことを考えれば……くっ!!!)


表情にはギリギリ出さず……心の中で悔むラスト。


ティールはなるべく同業者たちを問題を起こさないようにを気を遣っていた。

ただ……ラストとアキラだけでギルドに情報を買い取りに行っても、バカは絡んでしまう。


もし、買取に行ったのがティールとアキラの二人だけなら? と考えると…………圧倒的にあの時以上の愚か者たちが絡みに行く光景が目に浮かぶ。


(そもそもマスターのこの表情……そういった考えを少しだけでも持って提案したのか、それとも何も考えず休日だから皆で街を散策しよう……と提案してるのか、解かり辛い)


朝食を食べながらも、一人難しい顔をしながら考え続けるラスト。


(ギルドに行かずとも、同じ休日の同業者たちと街中で出会う可能性は非常に高い。というより、確実にすれ違うだろう。もしマスターとアキラだけであれば……)


ティールとアキラが同業者たちと問題を起こし、負けるという光景は魔全く想像出来ない。


ただ、基本的に問題は起こしたくないよね、同業者と仲が悪くはなりたくないよね。という考えを持ってるティールの理想はあっさりと破壊されてしまう未来だけは容易に想像出来てしまう。


「ラスト、ラスト……ラスト!」


「ん? なんだ、マスター」


「何度も声を掛けても返事がなかったからさ。もしかして腹イタ?」


「大丈夫だ」


「そっか。それは良かった。それで、ラストも一緒に散策するだろ。ダンジョンを持つ街の武器屋や防具屋を見たいだろ!」


「あぁ……そうだな。非常に興味がある」


アキラも全くデートらしくない散策内容に不満はない……どころか、冒険者らしくそちらへの興味が強く、小さなワクワクが顔に零れていた。


「よし、決定だな!!」


(……判断が難しいところだな)


主人がもう本当に諦めているのか……まだ可能性を感じているのか判断出来ず、自分はどう動くべきなのか悩むラストだった。

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