ボーっとする
「よし、頑張ろっと」
普段と変わらない様子でボス部屋の扉を開けるティール。
既にティールという少年であろう冒険者がソロでボスに挑もうとしているという話は後方に並んでいる同業者たちにも広まっており、相変わらず彼らはこそこそとその事について話し合っていた。
普段であれば……なんだかんだで、せめて自分がいないところで話してくれよと思うティールだが、今は既にボス戦へ集中していた。
なので……ラストが代わりに鋭い眼光と圧を飛ばし、陰口大好きな同業者たちを威圧していた。
(ふふふ、ティールは本当に慕われているな)
味方によっては番犬の様な態度を取るラスト。
しかし、アキラから見れば、主人に忠義を尽くす武士であった。
「…………」
「「「ギギギャギャ!!!」」」
「ふぅ~~~~……っ!!」
ギルドから仕入れた情報通り、ボスモンスターはクロウスパイダーが一体と、バンデットゴブリンが三体。
手加減をしても余裕で倒せる相手だが……ティールもラストと同じく、クロウスパイダーたちが相手では、そこまで意味のある戦いにはならないと思っていた。
そのため、ボス部屋に入ってから直ぐに魔力を纏い、身体強化と脚力強化を発動。
「ゲバっ!?」
「ギャ……」
「ギバっ!!!???」
速攻でバンデットゴブリンに近づき、特に素材に価値がないゴブリンということもあり……適当に頭部に拳を叩き込み、粉砕。
バンデットゴブリンは通常のゴブリンとは違い、短剣や双剣を身に付けており、しっかりとスキルも会得している。
このボス部屋に現れるバンデットゴブリンたちは優れたコンビネーションを持っているのだが……戦る気になったティールの前では、無意味。
「ッ!!!!」
敵が後方に移動したと、本能的に察知したクロウスパイダーは体を半回転させ、得意な斬撃刃を交差させて放った。
「よっ、と」
だが、ティールはそれぐらいならやってくるだろうと読んでおり、屈んでクロススラッシュを回避し……まるでベ〇ットの様に右手から風の魔力を剣状に伸ばし……クロウスパイダーの体を完全に貫いた。
「っ!!?? っ、っ……」
「ちょっと雑に倒し過ぎたか?」
「別に良いんじゃないか? こいつらはCランク。ここより下に降りて行けば、直ぐに同レベルの奴と遭遇できるだろ」
「それもそうだな」
死体と宝箱を回収し、前回と同じく地上に展開。
「マスター、解体をギルドに頼むのか?」
「……そうだな。多少金を取られるけど、別に良いだろ」
冒険者ギルドには専属の解体士たちがいる。
多少金を取られるものの、彼らに任せれば死体を綺麗に解体してくれる。
ティールたちがギルドに入ると、いつもの如く視線があつまり、ざわつきだす。
耳を澄ませば自身の悪口が聞こえるかもしれない。
そうなれば否が応でも心に苛立ちが生まれる為、ティールは自分の番が回ってくるまでボーっとしていた。
そして三人の番が回ってくると、買取素材の査定の為に複数の受付嬢が作業に取り掛かる。
「……チッ。面と向かって言えない臆病者共が」
ティールはボーっとしているため気付いていないが、ラストはいつも通り主人の陰口には敏感になっていた。
それでも主人の教えを頭の中で反芻し、あいつらは悲しき愚かな人種なのだと言い聞かせ、怒りを鎮める。
一時的にパーティーを組んでいるアキラもなるべく気にしないようにしていたが、それでも耳に入ってしまう者は入ってしまう。
ラストの様に苛立ちは感じるものの、言われている当の本人が全く気にしてない。
故に、自分が口を出す場面ではないと、無理矢理納得させる。
「こちらが買取金額になります」
「ありがとうございます」
数十分後、今日も今日とて速足でギルドから出ていく三人。
(っ? ラストか……もしくは、アキラか?)
自分に関する陰口などが耳に入ってこないように、意図的にボーっとしていたティールだが、自分以外のパーティーメンバーに強い視線が向けられていることに気付いた。
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