それぐらい難しい事かも
アキラと予定を合わせて初めてエルダートレントを探し始めた日、結局三人はエルダートレントを発見する事が出来ず、素材をギルドで売却してその日は解散。
二人で夕食を食べている間……一応、ティールの雰囲気はいつも通りだった。
「……マスター、大丈夫か?」
「ん? 何がだ」
それでも、尋ねずにはいられなかった。
本当に……砕けた恋心は大丈夫なのかと、メンタルの裂傷が戦闘に影響を及ぼすことはないのかと。
「いや、あれだ……アキラの事、少しは気になっていたのだろ」
「…………まぁ、な。正直、今回はちょっと……どころじゃなくて、本気で頑張ろうって思った。気になる人がいるぐらいなら戦闘面で上手くアピールして、なんとかその気をこっちに向けられないかって考えてたんだけどなぁ」
これまで理由を付けては実質恋愛という舞台に立たなかったティールからすれば大きな進歩と言える。
だが、その成長ぶりを発揮する前に、ティールとしては越えてはならないラインが、壁が発生してしまった。
「……その婚約者とやらが、本当は裏でヤバい奴だった……という可能性はないのか?」
本当にもしもの可能性ではあるが、そうだった場合、確かにティールにも正当なチャンスがないとは言えない。
しかし……現状では、情報屋を雇ったとしても、そういった事情を知るのは不可能に近い。
「ラスト、あの思い浮かべる顔を覚えてるか?」
「一応」
「あれが、実は裏で結構な屑を思い浮かべる顔か?」
「むぅ…………」
アキラがその屑具合を見抜けてない可能性は? とも思ったが、実際に話してみて頭が固い堅物ではないと解かる。
少々真面目な部分が強いとはいえ、正義マン故の偏見などは持っていない。
「その可能性はないよ。だから、俺がここからどうこう出来ることはないし、多分俺も望まない」
結構、割と、そこそこマジで本気で気になってしまった相手だからこそ、自分よりも圧倒的に強いなどそういった理由で心変わりしてほしくない……と、思ってしまう。
ぶっちゃけ、それはそれで嬉しいというか美味しいと思ってしまう流れではあるが……心を鬼にして、それはそれでこれはこれと宣言する。
「……難しい、ものだな」
「誰かに想いを伝えるって時点で、中々ハードだからね。意中の相手と言うか、既に結婚する準備? が出来てしまってる相手をどうこうするのは……Aランクのモンスターに勝つぐらい難しいんじゃないかな」
人によるかもしれないが、ティールから見てアキラという女性の想いを自分に向けさせるのは、それぐらい難しいと判断。
「とにかく……今は、一瞬でも惚れた人と話せて一緒に戦える時間を大切にしたいってところかな」
「そうか」
主人の考えは、決して間違ってないのだろう。
しかし……ティールを慕うラストからすれば、主人のそういった低姿勢なスタイルは見たくなく、どうせなら突っ込んで挑戦してほしかった。
(…………それは、俺の我儘であり、身勝手なエゴというやつなのだろうなぁ……俺がそうしてほしいという考え通りにマスターが動き、結果として上手くいったとしても、どうしても後になって問題が発生する)
終わった恋をいつまでも引きずらず、一応切り替えられていることを考えると、寧ろそこは利点と言えなくもない。
(マスターのことだ。まだ内心では失恋のダメージが癒えてなかったとしても、やはりそれが戦闘に影響するということはない、か……マスターも俺ほどではないにしろ、強敵との戦いは好物だしな)
強敵との戦闘となれば、必然的に集中力が高まる。
逆に強さがそこそこの相手であれば……集中力はそこまで高まらずとも、これまでの経験による勘や身体能力、反応速度によって無理矢理対応出来る。
何も心配はいらない…………とは思いつつも、ティール本人ではないため、失恋の傷がどれほど深いのか分からず、心配感はぬぐい切れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます