苦い記憶

「……なんか、視線が増えたな」


「俺たち二人がBランクに上がったからだろう」


Bランクの昇格試験を終え、一緒に戦った仲間たちと宴会を行い、無事に昇格。

そしてまた宴会を行ってから……二人はまだ次の行き先が決まっていなかった。


キングワイバーンという中々珍しいキング種が現れたのは、本当に偶々偶然。


ニュパートン周辺に生息するモンスターは平均的に見ればそれなりに強い個体が多いものの、二人の戦闘欲や冒険心が満足する相手は中々現れない。


「まぁ……何人かは、今すぐにでも殴った方が良さそうだがな」


「止めろ止めろって。他の同業者たちがいくら疑ったところで、俺のランクが覆ることはないんだから」


ぶっちゃけまだBランクに上がるのは、後数年後ぐらい経ってからの方が良いと考えていた。


そんなティールではあるが……上がったら上がったで、自身のランクにあれこれ言われるのはイラつく。

しかし、歳不相応な考えを持ってるティールからすれば、陰口ぐらいで本気で苛立つのは時間の無駄。


(この前発散したばかりだし、また同業者をボロカスにしたら……変な異名を付けられそうだしな)


まだ十五を越えていないことを考えれば、まだまだこれから数年は現在の様な状況が続くと確定している。

やはり、この程度のことで一々怒っていられなかった。


「二人共、まだ依頼は決まってないの?」


「シャーリーさん、おはようございます。そうですね、まだ全然……どういった依頼を受けようかも決めてません」


「それなら、私と一緒に面白そうな依頼でも受けない?」


本当に特にどんな依頼を受けようか決めていない二人からすれば、一緒に受けないという選択肢はなかった。


結果、三人はヒポグリフの卵を納品するという依頼を受けた。



「そういえば……シャーリーさんは、一緒にパーティーを組まないかって誘いが来てるんじゃないんですか?」


森に入り、ヒポグリフの巣があると言われている場所に向かって出発。


それから数十分後、ふと思い出したティールはその場で尋ねた。


「それなりに多くの誘いが来たわね」


「良い感じのパーティーからの誘いはなかったんですか?」


「ん~~~~……個人的に、既に完成されてるパーティーにお邪魔するのが、あまり好きじゃないの」


冒険者界隈では、特に珍しい事ではない。


数年、同じメンバーで活動していたとしても、意見のすれ違いで解散してしまうことも多々ある。

メンバーの誰かが依頼を受けている最中に死んでしまえば、基本的に解散か新しいメンバーの募集を行う。


「……過去に、何かあったのか?」


「そうね…………正直、ネタとして話ではあるのだけど、私の中ではそれなりに引っ掛かる件があったの」


シャーリーの表情を見れば、本当に本人としてはネタにし辛い体験であることが窺える。


「だから、そういった件があってからは、ソロで行動するか一時的にパーティーを組んで活動するか、その二択ね」


「……女性だけのパーティーとかでも、不安は残るんですか?」


「それはそれで、気を抜けないというか……思いもよらないところから来るというか」


(女性だけのパーティーでも、それはそれで気が抜けないって………………一応、恋愛絡み、なのかな?)


ティールの予想は的中。


シャーリーは一応貴族出身ということもあり、武器術や魔法の才だけではなく、容姿も周囲と比べて頭二つか三つ跳び抜けている。


一度目は男女混合のパーティーで活動していた頃に、パーティー内での恋愛関係が拗れて大爆発。


二度目は運良く女性だけのパーティーを受けて活動していた頃……パーティーにはおらずとも、仕事の関係上、同業者の男と関わることはある。


そのパーティー外の異性と、パーティー内の同性の感情が要因となって……結局シャーリーは自主脱退。


(固定パーティーを組んだ方が良いのは解ってるのだけど、本当に上手くやれるイメージが湧かないのよね……いっそ、クランにでも所属すれば私個人が脱退しなくても済むかしら?)


自惚れてる訳ではなく、過去に苦い経験があったからこそ、シャーリーは本格的に二人とパーティーを組みたいとも

思っていない。

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