相応しい場で
「…………」
「……どうかしたか、マスター」
シャーリーたちとの宴会を終えた帰り道、ティールは空を見上げながらボーっとしていた。
「いや、何でもないよ、ラスト。ただ……本当に、Bランクになったんだと思ってね」
懐から、自身のギルドカードを取り出して見上げる。
そこには間違いなく……ティールの名前と、Bランクという言葉が記されていた。
(ジンさんがいたところまで、辿り着いたんだな)
ようやく、ではない。
もう到達してしまったという言葉が正しいだろう。
まだ十四歳であり、冒険者として活動を初めて五年も経っていない。
(さっき話した通り、これまでも面倒な人達に絡まれるだろうけど……それでも、辿り着いたんだな)
Bランクという位置に到達するのは、いずれ叶えたいと思っていた一つの目標であった。
目標があっさりと敵ってしまうというのは、なんとも味気なさを感じるかもしれないが……ティールにとってはそれはそれ、これはこれだった。
「マスターの実力を考えれば、Aでもおかしくはないがな」
「Aランクっていうのは、実力だけで到達出来る場所ではない。というか、俺もAランクを相手にそこまで戦えるか……とにかく、まだまだ早い。早過ぎるのは間違いないよ」
多くの強化スキルに加えて剛力無双を使えば、Aランクのモンスターに対抗できると五人に話したのは、決して嘘ではない。
そこまでガチガチに強化したティールであれば、痛烈な一撃を与えることも不可能ではない。
だが……ティールは一つ勘違いをしている。
Aランクの冒険者は、なにも一人でAランクのモンスターを倒せる実力が無くても、一応問題はない。
ティールが五人、四人もいればある程度のAランクモンスターは倒せる。
それで十分なのだが……根が戦闘者だからか、ティールはまず力がなければ実質の頂には手が届かないと考えていた。
「マスターは相変わらず謙虚だな」
「……謙虚過ぎるのは、良くないか?」
「美徳の一つなのだろう。だが、同性代たちと敵対した場合、余計に怒りを買ってしまうのではという心配はある」
「ふふ、優しいな。でも……その前にラストがぶん殴ってしまうんじゃないか?」
主人の言葉に、ラストは直ぐに返答できず……じっくり考えた結果、その通りだった。
「そうだな。我慢しなくて良いのであれば、我慢せずぶん殴りたいな」
「はは! やっぱりそうだよな…………まぁ、そうだな。あんまりストレスを溜めすぎるのは良くないよな」
主人からどう考えて対応すれば良いのか教わった。
そしてその考え方は確かに納得出来る。
最初の頃と比べれば、主人の本当に実力に気付かないバカに対する苛立ちは小さくなった。
それでも尊敬する主人をバカにされれば……やはり苛立つ。
殺しまではせずとも、半殺しぐらいにはしたい。
「ラスト、今度からあんまりにもぶん殴りたくなったら、上手いこと乗せるんだ」
「……挑発すれば良い、ということか?」
「簡単に言うとそういう事だ。俺の実力が信じられない、Bランクというランクは合ってない。不正を行って手に入れた偽物だ、そんな感じで絡んでくる連中なら、本人達もそんなに煽り耐性はない筈だ」
なにより、絡んで煽って馬鹿にしたのに、逆に同じ事をされて……黙って下がれば、面子が丸潰れというもの。
本当に後先考えず絡んで来たバカであれば、挑発されて引き下がるという選択肢は絶対にあり得ない。
「ちゃんと訓練場とかでの戦いに移行出来たら、常識の範囲内でボコボコにすれば良い」
「ほ、骨も折って良いのか!!」
「ボキボキに折っても良いぞ。まっ、メインは両手両足ぐらいにしておいてくれよ」
自身も過去に一度鬱陶しいゲージがマックスを越えて限界突破したことがあるため、自分を慕ってくれている者をこれ以上抑えされるのは良くない……そんなティールの考えは、考え自体は決して間違っていないだろう。
しかし、これによって本日以降、犠牲となる若者が増加することは……言うまでもなかった。
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