突進粉砕玉砕?

(っ!? いきなり……スピードが上がったな。いや、上がったのはスピードだけではない、か)


バイコーンは周囲の木々に突撃してしまうと……一本だけではなく、そのまま二本三本と連続で破壊してしまう。


(怒ってる……怒ってるんだよな? 怒りで周囲が見えてないってことか?)


冷静さを失えば、視野が狭まる。

その言葉を体現している様な動きだが、それでも身体能力が上がっているのは間違いなかった。


(そういえば、ちゃんと視てなかったな)


ティールからすれば、今回の戦いは……特に試練と呼べるものではない。


自分たちの戦闘力は言わずもがな、一緒に戦う者たちの戦闘力も高い。

初めて戦うモンスターもいるが、今のところ不安や恐怖を感じさせる圧は感じない。


(……怒り、か。えっと……怒りという感情がトリガーとなり、発動者の身体能力を向上させる、か)


それらしいスキル。

しかし、怒りの上に狂化というスキルがあり、怒りは下位互換のスキル。


任意で発動することは出来ず、怒りという感情が収まらなければ、発動は解除できない。


(使い勝手が悪そうなスキルだけど……突進力が加算された攻撃力だけなら、Bクラスに入る……か?)


偶にキングワイバーンのブレスや火球を妨害しながら、適度にバイコーンの側面を叩いていく。


普通なら……全力のパフォーマンスを出せない状態に追い込まれていてもおかしくないが、バイコーンのスピードと攻撃力は、依然として上がっている。

ついでに痛覚も麻痺している為、あと数分はパフォーマンスが落ちることはない。


(……そろそろ、周りを意識して戦った方が良さそうだな)


ティールのスピードを持ってすれば、まだまだ回避に余裕はある。

そしてバイコーンは相変わらずよけられても、必ず数メートル以上はそのまま進んでしまう。


回避のタイミングをミスすれば……他のメンバーの戦闘を邪魔し、怪我を負わせてしまうかもしれない。


(しょうがない。力で押し返すか)


完全に力で対応する訳ではなく、突進時……タイミング良く回避。

そして横側からカウンターをぶち込む。


突進力の高さは確かに脅威ではあるものの、怒りを発動したバイコーンのレベルだと……横から攻撃を与えられると、簡単に揺らいでしまう。


(後数分、もいらないか)


ベストは自分がバイコーンを倒すタイミングで、他のメンバーもジェネラルやウルフを仕留める。


(つか、バルバラさんメインで任せるのも、そろそろ辛いよな!!!!)


決してバルバラの実力を見下している訳ではない。


ただ、思った以上にキングワイバーンの火力が高く、同時に魔力総量も多い。

それ故に早く仕留めようという思いが生まれ、今回の戦いで……初めて疾風瞬閃をバイコーンに向けた。


ようやく自分に意識を集中させた……なんて事は関係無く、怒りの発動が解除されることはない。

寧ろ更に猛り、完全にティールを串刺しにすることだけしか頭にない。


「疾ッ!!!!!!!」


「ッ!!!???」


鋭く……痛覚が緩んでいても無視できない痛みを感じ取った。

だが、それでも荒ぶる突進を無理矢理止めることは出来ず、今回もまだ折れていなかった木に激突。


「ッ!!!! っ……バ、ァ…………」


これまでと同じく振り返り、即座に突進を再開させようとしたが、脚が……首が、体が思うように動かなかった。


終盤になっても相変わらずの破壊力ではあったものの、体を大胆に斬り裂かれては痛みが薄れていたとしても、体が言う事を聞かなくなる。


「……よし、回収回収」


バイコーンが完全に死んだのを確認し、即座に回収。


(とりあえずバルバラさんの手伝いに回ろう)


キングワイバーンに嫌がらせの攻撃を放ちつつ、意識をラストやバゼスたちの方にも向け、決戦の時が来るのを慌てず待ち続け……そのタイミングが来た瞬間、ティールはダッシュで転がっている死体を回収した。

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