主人が隣に居るからこそ

ティールとバゼス、ラストとゼペラの模擬戦を終えてからも、ペアを変えて何回か模擬戦を行ったが……ティールとラストは全て負けなし。


「あんた達……マジでなんなの?」


「えっと……もう少し詳しくお願いします」


数回の模擬戦を終え、ある程度互いの戦い方などが解った後、ゼペラがティールに面と向かって尋ねた。


お前たちはいったいなんなのだと。


「いや、だってあんたみたいな年齢でそこまで強いって、色々とおかしいでしょ」


ラストに同じ得物を使った勝負で負けたゼペラは、当然となりで行われていた勝負は見ておらず、ティールとの模擬戦時は本気で勝つつもりで挑んだ。


しかし、結果は一度も切傷などを与えられることなく敗北。

結果を振り返れば噂通りの人物なのだと納得出来なくはないものの……それでも色々と疑問が残る。


「そ、そうですね」


「いや、あっさりと認めるのね」


「もう村を出て一年以上たつので、色々と自分が同年代の人たちと違うということは理解してます」


元々村で生活している時に気付いてはいたが、村を出てからより強く自覚。


これまでの生活の中で、自分と似た様な存在だと思った人物は一人……ヴァルター・フローグラだけである。


「子供の頃からモンスターを狩ったり、色々とやってたんで、そこが他の人たちと違う大きな点だと思います」


「ふ~~~~~ん…………まっ、それで納得するしかなさそうね」


まだ他にもあるだろと言いたげな眼ではあるが、更に深く尋ねることはなく一歩引いた。


「けど……なんで君のお仲間の竜人まで、あんなに強いのかしら」


これまで何度も同族と戦ってきたことがある。

同年代の男に負けたことはあるが、ラスト戦の時の様に結果として……それなりに手を抜かれて負けたという感覚は、久しく味わっていなかった。


「えっと、それに関しては特に俺は何もしてませんよ」


助けて~~、という意志を込めながら視線をラストに向けるティール。


「……俺とマスターは、基本的に戦ってばかりだ」


「私が戦ってないとでも?」


「そこは知らん。ただ、マスターが隣に居るからこそ、強敵を相手にそこまでリスクを考えずに挑むことが出来る。マスターは自分のお陰ではないと言うが、俺はマスターが隣に居るからこそ、ここまで強くなれたと思っている」


ラストが努力していない……訳ではないが、それでも足りないティールが戦闘と探索だけに集中出来る環境をつくっていなければ、ここまでの急成長は不可能。


ダンジョン内での探索などを例に挙げられると、ティールも謙遜は出来ない。


「…………私もまだまだってことね」


「いやぁ~~~、ラストもマジで強かったぜ!! ぶん殴り合いなら竜人族にも勝ったことがあったんだけどな!!!」


「あんたの拳も恐ろしかったよ」


基本的に我儘で一直線に突き進み、誰彼構わず勝負を挑む癖があるバゼスだが……自分と正面から殴り合って勝利した人物が二人もいるということもあり……ゼペラたちが知る中では、割と大人しい状態になっていた。


「なぁ、ゴルダさん。明日はどうした方が良いと思いますか」


「後衛の問題だね」


「はい、そうです」


二人の会話に疑問符を浮かべるゼペラとバゼス。


二人の中では昇格試験時、ティールは絶対に前衛として戦うと思い込んでいた。


「そもそもキングワイバーンがいる時点で、そいつが放つ攻撃を何とかしないといけないと思うんですよ」


「同感だな。ブレスなどの広範囲技になると、俺も瞬時に全員を守る事は出来ない」


「やっぱり、まずは俺が牽制し続けるべきですかね」


「ねぇ、ちょっと待って。ティール剣士か拳士寄りの戦闘スタイルなんでしょ?」


我慢できず、二人の会話に割って入り尋ねるゼペラ。


「今回の模擬戦で見せる機会はなかったが、マスターは魔法も出来る魔法剣士タイプだ。やろうと思えば、バルバラと二人で後衛として働くことが出来る」


ラストの説明を聞いたゼペラとバゼスは顎が外れそうなほどの衝撃を受け、固まった。

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