そこは譲れない
(この二人……完全に模擬戦だということを忘れているな)
審判を務めるゴルダはいつでも止めに入れるように構えていた。
(いや、模擬戦だという事を完全に忘れているのは……ゼペラの方か。全く、冒険者歴ではラストより上だというのに……もう少し先輩の自覚を持ってほしいものだ)
心の内でゼペラの行動に対して苦言を呈すも……その感情は解らなくもなかった。
普段から穏やかな態度を崩さないゴルダだが、タンクとしての確かな自信とプライドがある。
(…………センスの塊なのか、それとも元々嗜んでいたのか……後者か?)
ゼペラとの模擬戦内容から、ラストに戦闘のセンスがあるのは間違いないものの、センスがある……もしくは天才の一言で片づけられるようには思えない。
実際は……モンスターを倒しても倒しても増え続ける、実戦を行うにはもってこいの場所であるダンジョンで使い続け、実戦での扱い方を体に無理矢理染み込ませたと言える。
故に対人戦の技量はまだまだ一級線には及ばないが、それでも運動能力でカバー出来るレベルには達していた。
「……手合わせをするのは賛成だったが、結果によっては……」
ゴルダは冷静に判断した上で……ラストが勝つと予想していた。
ラストはわざわざ槍というゼペラの土俵に上がったが、必ずしも槍で戦い続ける意味はない。
ゼペラの技によって槍を飛ばされてしまった場合、そこから大剣や素手の戦いに切り替えることも出来る。
審判を務めるゴルダとしては槍が飛ばされた時点で諦めてほしいが……ラストの様なタイプの冒険者は、得物が飛ばされた程度で勝利を諦めるとは到底思えない。
「ハッ!!!!!」
「シッ!!!!!」
互いに加速し続け、槍には属性魔力を纏い……渾身の突きを食らえば互いの体を貫くのは間違いない。
審判のゴルダは……観戦しているバルバラも、もうそれ以上戦う必要はないだろと言いたい。
しかし……二人とも冒険者だからこそ、ゼペラとラストが自分たちの言葉では止まらないことを悟っていた。
(自分の、土俵で、負けてたまるかッ!!!!!!!!!!)
(昇格試験、前に!!! これほどの高揚感を、味わえるとはな!!!!!!!!)
更に闘志を燃やすゼペラに対し、圧倒的な満足を感じ……無意識に笑みを深めるラスト。
(やはり……技術では、敵わないな)
数分以上、互いの槍をぶつけ合い……それは十分に理解出来た。
まだまだ新たな武器として扱うには訓練が足りないと思い知らされた。
であれば、今回の模擬戦に負けても構わない?
いや、それとこれとは話は別であり……純粋な槍のバトルでは負けても、勝利まで逃すつもりはない。
「ジャァアアアア゛ア゛ッ!!!!!」
「なっ!? ぐっ!!!!! …………クソッ!!!!!!!!! ……私の、負けだ」
「良い戦いだった」
お世辞ではなく、心の底から感じた感想を告げ、首筋に突き立てた槍を下ろす。
身体能力が、自分の方が力が上だったからこそ勝てた……なんて慰めの言葉は掛けない。
竜人族であれば、純粋な力も賞賛される点。
それはそれで立派なラストの強味であり……ゼペラにとっても、負けられない要素の一つではあった。
「い゛…………だぁ~~~~~、クソッ!!!!! 素手での戦いだったら勝てると思ったんだけどな……俺の負けだ」
「どうも」
ラストの模擬戦が終わってから直ぐ、隣で行われていたティールとバゼスの模擬戦も終了。
勝者は……メイン武器ではない体術で戦ったティールだった。
(…………多分、ティールが勝つとは思ってたけど、改めてバゼスを相手に素手で勝ったと思うと……やっぱり私たちの中でも群を抜いて規格外な存在ね)
途中から本気度が八割を越えたバゼスだったが、激しい猛攻を全て捌き切り、ティールの手刀が喉元に突き付けられ、敗北を認める形で終えた。
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