守れるライン
「えっ、本当ですか!!」
「そうなんですよ」
出発する前日の昼、明日にはもう出発するという事で二人は最後にヴァルターとの昼食を食べていた。
そこでティールは冒険者ギルドからBランクの昇格試験を受けてほしいと頼まれたことに関して話した。
すると……ヴァルターは我が事の様に嬉しそうな笑みを浮かべる。
ティールとラストがBランクに昇格したからといって、ヴァルターに何か利益がある訳ではない。
ただ、二人に敬意を持っているヴァルターからすれば、自分まで嬉しくなる出来事だった。
「お二人なら、絶対に昇格出来ますよ!!」
ヴァルターの言葉に、護衛の騎士たちも同意するように頷く。
「はは、ありがとうございます」
「試験はもう決まってるんですか?」
「いえ、それに関してはまだ聞かされていません。ですが、おそらくBランクであれば討伐出来る……そういった強さを持つモンスターを討伐するのが試験内容かと思います」
「でしたら、お二人なら問題無しですね!!!」
単純なアドバイスとして、二人から己の実力を過信してはならないと教えられている。
ヴァルター自身、実戦訓練でDランクのモンスターを一人で倒せたからといって、次も確実に倒せるとは思っていない。
しかし、既に数々のBランクモンスターをソロで、もしくは二人で倒しているティールとラストが試験に受からない、不合格になる……といったイメージが一切浮かばなかった。
「あまり油断してると、うっかり足元を掬われるかもしれませんが、正直……自分たちも下手に緊張はしない方が良いと思ってます」
試験内容に関して、ラストとしては大量のCランクモンスターの討伐……もしくはBランクモンスターを一体討伐、といった内容であればぶっちゃけ免除してほしいと考えていた。
勿論立場上はティールの奴隷であるため、ギルド職員に向かってその様な事を面と向かって言えるわけがない。
ただ、ラストがこれまで打ち立ててきた功績を考えれば……心の中でそう思ってしまうのも無理はなかった。
「岩窟竜に挑んだことがあるお二人なら、直ぐにAランクの昇格試験を受けられるかもしれませんね」
「そ、それはどうでしょうか」
全くもって勘弁してほしい未来である。
今回の試験に受かってBランクに昇格すれば、最年少でBランク冒険者になったという記録が残る。
加えて……そこから数年いないにAランクに昇格するようなことがあれば、再び最年少記録を打ち立てることになる。
師であるジンの記録を越えることが出来る。
それはそれで嬉しい事なのだが、やはり面倒や複雑といった思いが強くなる。
「あっ、でもそうなると……貴族から声を掛けられることが多くなりそうですね」
そう、そこが問題となる。
現時点の二人は……本当にCランクなのか? という疑問を持つぐらいの実力を持つ冒険者。
実力はあれど、立場はない。
だが、Bランクに昇格すれば……それでも疑問を持つ者は多くいるだろうが、興味を持つ者は格段に増える。
そして……Aランクともなれば、多くの者が放っておかない。
まだBランクまでであれば、これまでの冒険の中で知り合ってきた貴族たちが守れるが……Aランクになってしまうと、彼ら以上の権力を持つ者が二人に興味を持ってしまう。
「僕らとしては、あまり自分たちを囲おうとする要望は遠慮したいんですけどね」
「なるほど。そうなると、今回の昇格試験もあまり受けたくはなかったんですか?」
「……本音を言うと、そうなりますね。師である人物がいたランクに追い付けるのは嬉しいですが、まだ早いというのが正直な感想です」
謙虚だからこそ出た言葉……ではないと悟れるだけの頭がヴァルターにはある。
(…………お二人に負けないぐらい、僕も成長しないと)
受けた恩があるからこそ、それを返したい強い思いが生まれる。
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