どうする?

「「…………」」


「えっと、もしかしてあんまり細かくは指導してないの?」


そんな事はない。

ティールとラストもアドバイス出来ることはなるべく細かく伝えている。


ただ……ヴァルターの戦闘力が飛躍的に向上した指導に関しては、他者の成長とあまり関りがない。


「いや、それなりにちゃんと指導はしてますよ。指導系の依頼を受けるのは今回が初めてですけど……ヴァルター様が急成長したことに関しては、メンタル面? 的な指導というか、アドバイスを行っただけなんですよ」


「メンタル面、ね。常に前を向く考え方とか?」


「いえ、あのスキルに関して、どう向き合えば良いのか。その辺りに関して、出来る限りのアドバイスを行いました」


「その結果、ヴァルター様は周囲の期待通りの成長を果たした、ということなのね」


「はい、そんな感じです。なので、俺がヴァルター様に伝えたそのアドバイスが、オリアス様にも通じるかはどうかまではちょっと保証できないというか……多分、合うことはないと思うんですよ」


何故最初に質問した時に間があったのか理解したシャーリー。


(聖剣技と暗黒剣技を扱う上での心構え? 的なものを教えたという事よね……この子、確か十三か……十四? の子供よね。やっぱり圧倒的な力を持ってるだけじゃ何体ものBランクモンスターを倒せないのね)


基本的にはソロで活動しているシャーリーだが、それなりに情報収集は欠かさず行動している。

当然、その情報収集でティールとラストという冒険者の経歴も入ってくる。


「ん~~~……そうなると、オリアス様にもメンタル面で強制的に色々と変えるしかない、のかしら」


「……そう、ですね。多分ですけど、強さ云々より前にそこをなんとか出来ない限り、オリアス様はずっと自分とヴァルター様を比べてしまうかもしれませんね…………というか、シャーリーさん。あっちの方はあまり順調じゃないんですか?」


「うっ……いや、まぁ……その、ね」


気まずそうな顔をしながらも、自分の質問を答えてもらっておいて、相手の質問を答えない訳にはいかないと思い、口を開く。


「ほら……私は、オリアス様と十歳近く歳が離れてる訳じゃん」


「そう、ですね」


「だから……私としては、弟にしか思えないわけよ」


「なるほど? でも、目標は別に本当に結婚することじゃないですよね」


「いや、それは私も解ってるよ。当主様の方から色々と事情を訊いてるから、そうする方がオリアス様の為にも、ヴァルター様の為になるのも解ってる。けどさ……そこで、私があの子の想いに答えなかったら、どうなると思う?」


「それは……」


特別な兄と比べ続けられる中、自身のことを肯定してくれる女性が現れた。


次第にその女性に惹かれていき、特別な想いを持つようになる。

しかし、いざ想いを伝えると……儚い笑顔で断られてしまう。


……ティールの脳裏に最悪過ぎる未来が浮かんだ。


「けど……あれじゃないですか。こう……あれですよ、良い男になったら考えてやる、的なことを言って先延ばしにすれば」


「……君、本当に十三か十四? 考え方が色々と経験を積んできた人のそれにしか思えないのだけど」


「は、ははは。偶に言われます」


悪くない案ではある。

そういった言葉を伝えて去れば、おおよそ十年ぐらいは問題を先延ばしに出来る。


「そうだね……十年ぐらい経てば、オリアス様の心も変わってるかもしれない。もしかしたら、その間に良い人が見つかるかもしれないし」


「……一応なんですけど、もしずっと……シャーリーさんのことを想い続けてきて、十年後ぐらいに告白されたらどうするんですか」


「えっ、いや……それは、ほら。もう私はその時、二十後半だよ。基本的に令息たちは同年代、もしくは歳下の子と結婚するものでしょ」


「それほど一途って可能性は捨てきれないかもしれないじゃないですか」


「…………」


まだまだ先の話ではあるものの……タラればの話ではあるが、絶対にあり得ないと断言することは出来なかった。

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