いずれはキャリーされず

(おとっと~……こいつは、俺たちで対応した方が良いよな)


昼食後に現れたモンスターの名は……フォレストゴーレム。

Cランクのモンスターであり、どう考えても十歳の子供が戦う相手ではない。


森林暗危に出現するフォレストゴーレムと比べれば弱い者の、その腕力と生命力は確かな脅威を持つ。


「ヴァルターさん、ここは自分たちが……」


そう言いかけたが、明らかにヴァルターの眼にはフォレストゴーレムに対する闘志が宿っていた。


(ま、マジか~~……ヴァルターさんの向上力? を考えたらある意味当然なのかもしれないけど……はぁ~~、仕方ないか)


小さな溜息を吐きつつも、その顔は確かに笑っていた。


「ヴァルターさん。俺とラストが援護するのが条件です」


「はい!! ありがとうございます!!!」


現状、ヴァルターがフォレストゴーレムに勝っている点はない。

ただ辛うじてヴァルターの攻撃はフォレストゴーレムに通じる。


そのため、ティールは弟子の要望を一部受け入れ、共に戦うことにした。


(とはいっても、ヴァルターさんが対応出来ない攻撃を全てこっちで対応してしまうと、ヴァルターさんの為にならないし……誰かに華を持たせる? 戦い方をするのは難しいな)


絶対に口に出せないことを考えながらも、ティールは要所要所でヴァルターへ致命傷になりうる攻撃が当たらない様に、後方から攻撃魔法を放つ。


(……難しいな)


リーダーからの指示に素直に従ったラストだが、ティールと同じく前に出過ぎない様に、ヴァルターの為になるように戦うという動きに苦戦していた。


(あれだな。さすがに不味い攻撃だけ何とかすれば良いか)


結果、ティールと同じ結論に至る。

二人が主に動くのは致命傷になりうる攻撃だけと決めたため、ヴァルターは何度か木の拳を防ぎながら吹っ飛ばされ、気の枝が何度も体に掠ることもあった。


それでもヴァルターの攻撃は何度かフォレストゴーレムの体を斬り裂き、一応ダメージは与えていた。


ただ、フォレストゴーレムは何も対策しなければ、周囲の木々から生命力を吸い取って回復してしまう。

当然のことながら、ティールもその特性は把握している。


(そろそろ、だな)


ヴァルターのスタミナ残量を計算し、ティールは前衛二人に声を掛ける。


「そろそろ終わらせるぞ!」


その言葉通り、ティールが威力を一段階上げた風魔法と氷魔法を放ち、動きを妨害。

更にラストはこれまでの戦闘から割り出した魔石の位置を把握し、そこに加減をした良い一撃を叩きこむ。


「いけ、ヴァルター」


「はいっ!!!!」


いずれは師たちの力を借りず、一人で倒せるようになりたい。

そんな思いを抱きながら、微かに見えた魔石の輝きに向かって、暗黒剣技を叩きこんだ。


こうしてヴァルターにとって圧倒的に格上の存在であるフォレストゴーレムとの戦闘は終了。

丁度良い時間ということもあり、傷の治療を行ってから直ぐに屋敷へ帰還。


「そういえば、そろそろオリアス様の指導係が決まるらしいですよ」


帰宅時の道中、騎士の一人が耳に入った情報を良かれと思い、ヴァルターに伝えた。


「そうなんですね……上手くいくと、良いな」


「へぇ~~、もう決まったんですね。冒険者ですか? それとも騎士ですか?」


「騎士だと勘繰られるかもしれないため、冒険者の方に決まったそうです」


「ランクはCと、一応ティールさんとラストさんと同じランクの冒険者のようです」


護衛二人はそこまで冒険者事情に詳しくはないが、二人がCランクという枠に収まる強さではないことだけは解っていた。


「なるべく、その人と顔を合わせない様に動かないとですね」


「……そうなると、事前にオリアス様とその冒険者がどこで訓練を行うのか、事前に知っておいた方が良さそうですね」


たとえ顔を合わせてところで……そう思うかもしれないが、世の中何が起こるか解らない。

それを理解しているからこそ、ティールは警戒心を高めた。

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