扱い方が解ってきた
とにかく、自身の強い背中を見せ続ける。
それだけであれば……不可能ではないと思ったヴァルターは、集中力が更に高まる。
何だかんだでヴァルターもまだ幼いため、本当はもっと自分に出来ることがあるのではないかと考えてしまう。
しかし、真剣に自身の兄弟関係について悩んでくれる師たちがや、家に仕えている騎士たちもヴァルター自身が直接動くのは難しいと断言する。
そんな中でも、自分に出来ることがあると教えられた。
それは直接関係改善の為に動いているとは言い難いが、それでも可能性の一つとなるのであれば……俄然、意欲が高まるというもの。
(……この前のアドバイスから、聖剣技の技量は順調に高まってる。ただ、暗黒剣技の方が成長幅が大きいな……もしかして、オリアス様や他の兄弟たちとの一件を上手く力に変えられてる、のか?)
まだ子供であるからこそ……仲良くしたいという思いと同時に、何故自分がここまで歩み寄ろうとしているにもかかわらず、あいつらはこの手を振り払おうとするんだ!!! という怒りもある。
戦闘時における感情の大切さを学んだヴァルターは、直ぐに学習してその怒りを上手く剣に乗せていた。
(弟様や他の兄弟たちがヴァルター様に嫉妬するのは解らなくもないが……これはあんまりにも不貞腐れている期間が長いと、手遅れになるぞ)
稽古を終えた翌日、再び街の外に出てモンスターとの実戦訓練を行う。
「ハッ!!!」
「ギギギギィ!!??」
(アイアンアントをあんなにバッサリと……切れ味も徐々に増してきてるか?)
鋼の甲殻を持つアリ、アイアンアント。
ランクはDであるものの、その防御力はDランクの中でもトップクラス。
まだ十歳のヴァルターには荷が重い相手ではあるが……約三分間、じっくりと相手の動きを観察し続け、最後の数撃で一気に追い詰めることに成功。
「お疲れ様です、ヴァルターさん」
「あ、ありがとう、ございます」
先日もゴブリンの上位種やオークなどといった、決して弱くはないモンスターたちと戦ってきたが、まだまだモンスターが発する純粋な殺気には慣れていない模様。
(でも、たった一人でアイアンアントを倒したというのは事実……末恐ろしいとはこのことだな)
お前が言うな、とティールに関わってきた者たちが聞けば、全員同じツッコミをしてもおかしくない。
「ラストから見て、今の戦いはどこか反省点はあったか?」
「…………いや、特にないな」
全くないわけではない。
身体能力の関係上、ヴァルターがアイアンアントの攻撃を回避だけで対応し続けるのは難しい。
何割かの攻撃は聖光、もしくは暗黒を纏った剣で弾きながら対応していた
その対応自体は決して悪いことではないが、あまりそれに頼り過ぎてしまうと肝心な時に魔力が尽きてしまうかもしれない。
何度が一歩奥へ踏み込み、アイアンアントに渾身の一撃を叩きこめる場面はあった。
しかし、更に一歩踏み出すにはリスクが伴う。
まだヴァルターは十歳。
これから……まだこれからが本番であり、成長する重要な時期。
そもそもモンスターと戦うという、実戦訓練を行うだけでも中々の無茶である。
その出来たかもしれない踏み込みについて指摘するというのは、酷であった。
「ラストさん、本当に……ありませんか」
「…………」
だが、アイアンアントと戦っていたヴァルターは気付いていた。
もしかしたら、優しさで隠しているのではないのかと。
「……まだ、先の話だ。今はまだ無茶をする時ではないと思うが……可能なら、一歩踏み出すべき場面がいくつかあった。実戦を考慮すれば、なるべく魔力を温存して倒せることに越したことはない」
「なるほど…………確かに、少し慎重に戦い過ぎたかも、しれません」
「いや、それが悪いわけではないのだがな」
ラストとしても、実戦訓練でそこまで弟子を追い詰めるほど鬼ではなかった。
ただ……ヴァルターは今現在、自分がどれだけ恵まれた環境にいるのか解っているからこそ、一歩前に踏み出せなかった自分を恥じていた。
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