贔屓は、してない

「オークをソロで倒すことが出来たからか、おもいきって動けるようになってきたな」


「そうだね。ちゃんと冷静さも残ってるみたいだし……コボルトの上位種が相手でも、無事に倒せそうだね」


オークの肉料理を食べてから約一時間後、今度はコボルトの上位種二体に遭遇。


今度は手を貸そうかと声を掛けたが、まずは一人で挑戦すると決断し、現在一人でコボルト上位種の猛攻に対応しながらも反撃を行っていた。


(……元々勤勉なんだろうな。実戦の中でも学習しようという意欲が強い。だからか、読みの力もこの短期間で上がってる気がするんだよな)


結果として、二体のコボルト上位種を倒すのに五分以上かかったが、それでも結果として上々。

かなりスタミナを消費することになったが、それでも安全を考慮すれば悪くない結果である。


「まだ日は高いですが、今日はこれぐらいにしましょうか」


「そう、ですね……反省会もした方が、良いですもんね」


それはそうなのだが、反省会をするにしてもティールから見て……今のヴァルターには特に言いたいことがない。


(一応あるにはあるけど、まだヴァルター様の年齢を考えると、十分過ぎる戦闘内容なんだよなぁ……でも、一応言うだけ言わないとあれか)


(反省、か……今はこの現状に満足しても良いと思うのだがな)


ティールだけではなく、ラストも同じ感想だった。



「あっ、オリアス」


「…………」


「っ……はぁ~~~~」


夕食前に屋敷へ戻ると、訓練場から戻って来たヴァルターの弟、オリアス遭遇。


弟に気付いたヴァルターは笑顔でオリアスに声を掛けるが、弟はそんな兄を一瞥し……応えることなく無言で立ち去った。


(……か、感じ悪~~~~~~~)


ドン引き、とまではいかないが、兄弟であの態度は何なのかとツッコみたくなってしまった。


「えっと……もしかして、あまり仲が宜しくないのですか?」


「……はい、そうなんです」


先日から使用していた訓練場に移り、ヴァルターはぽつりぽつりとフローグラ家の四男であるオリアスとの関係性について話し始めた。


「といった感じなんです」


「なるほど……それはなんとも、難しいですね」


ヴァルターやティールの様に先天性スキルを二つ持って生まれてくる者はかなり珍しく、貴重な存在。

そしてその二つのスキルが聖剣技、暗黒剣技となれば……過去に遡っても記録に無い貴重過ぎる存在。


無事に成長していけば生まれ故郷のノンビーラの守護神……どころの話ではなく、国の象徴とも言える地位まで上り詰める可能性を十分に秘めている。


父親であるギャルバは露骨に三男のヴァルターだけを可愛がるようなことはしなかったが、それでも自然と表情に期待の色が浮かんでしまうことがあった。


そういうところを知ってしまうと……当然の如く、他の令息たちはヴァルターに嫉妬する。


とはいえ、剣の訓練を本格的に始めてから数年が経ち……目に見えるほどの成果を出せなかったヴァルターに対し、他の兄弟たちは安堵した。


酷い? 醜い? 血の繋がった兄弟とは思えない?

本当に血の繋がっている家族だからこそ……割り切れない感情が大きいこともある。


加えて、中々成果が出ない状況であるにもかかわらず、先天性スキルを自由自在に操り……百パーセント力を引き出すことを諦めないヴァルターに対して、ギャルバは一切強く当たることはなかった。

それがまた子供たちの感情をかき乱すことになるが……ギャルバは特別ヴァルターを贔屓している訳ではなく、外から見ても全く悪い、差別と言える行為は行っていない。


ただ……まだ成熟した精神を持ち合わせてない子供たちに対して理解しろと告げるのは酷であり……現状、ヴァルターは仲良くしたいのだが、あまり仲良くなれない状況が継続していた。

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