実った実感

「マスター、実際……やれると思うか?」


既にオークとヴァルターの戦いは始まっており、予想通り……その大きさにヴァルターが苦戦気味だった。


「……それなりにギリギリの戦いになるとは思受けど、俺はやれると思う。根性とか精神力は歳の割に備わっている。後はここ最近で学んだことを十分活かすことが出来れば、無理な話じゃない」


オークはその身長差から、気の棍棒を使って薙ぎ払いと振り下ろし。

この攻撃方法しかないため、ある程度良い眼があれば……動きを完全に読むのは不可能ではない。


「シッ!!!!」


「っ!? ブボァアアアッ!!!!」


「……うん、良い感じだ。無理矢理倒そうという気持ち、欲が出てない」


聖剣技と暗黒剣技を有してる……今までそれらを殆ど使いこなせてこなかったヴァルターからすれば、だから何なんだという感想であり、全く驕る理由にならない。


現在使用している武器の長さ、自身の腕力や相手の体格を考えれば、変に欲を出すという考えは一切出てこない。


「ッ……ティール、さん。このままヴァルター様は、勝てるでしょうか」


「俺は勝てると思いますよ。ただ、勝負所を見誤ったら戦況はひっくり返ってしまいます」


「「えっ!!」」


今のところヴァルターがやや優勢であり、時間を掛けて戦況を傾けていた。


だが、ヴァルターはまだ十歳。

実戦で何分も本気で戦い続けられる程、スタミナに余裕はない。


先程戦ったゴブリンの上位種とは違い、オークの攻撃は今のヴァルターにとって当たれば必殺一撃。

それをヴァルターが解っていない訳がなく……だからこそ、確実に強力な一撃が通り過ぎる度、寿命が縮む様な恐怖を感じる。


既にオークには多数の切傷があり、だらだらと血が流れている。

いかにモンスターと言えど、グールやスケルトン、リビングデットといったアンデットタイプの様な例外でなければ、人間と同じ。


血を流せば流すだけ意識を保つのが難しくなるが……依然としてその攻撃は非常に強力。


(今、ここっ!!!!)


それでも、今のヴァルターには冷静にチャンスを見逃さない集中力があった。


振り下ろされた一撃を良いナイスな距離感で躱し、棍棒を台にして駆け上がり……右手に持っていた聖属性の剣をスイッチし、右手に攻撃力に優れた闇属性の剣を握り……最後の危険を考慮しながら首を斬り裂いた。


「ッ!!! …………はぁ、はぁ、はぁ……勝ったん、ですよね」


「見事な勝利です、ヴァルターさん。最後のスイッチ、そして右から来るかもしれない攻撃への警戒を忘れない動き。そして着地してから直ぐ離れた……戦いが始まってからの動きも含めて、満点と言っても過言ではありませんでした」


「……っしゃ!!!!!!」


師と呼べる人物から、満点に近いと褒められれば……声を上げてガッツポーズを取ってしまうのも無理もない。


「どうせなら、ヴァルターさんが倒したオークを解体して昼食にしましょうか」


ティールの提案をヴァルターが断る訳がなく、早速解体を開始。


そしてもう数回実戦を経験し、丁度良い時間になり、調理開始。


「どうぞ。香辛料も使ってるので、それなりに食べられる味だと思います」


「あ、ありがとうございます…………なんか、何でか良く解らないんですけど、凄く……美味しいです」


伯爵家の令息であるヴァルターは今までオークの肉よりも美味い料理を何度も食べている。

香辛料を使っている料理も決して珍しくない。


それなりに美味い、至って普通の料理……その筈なのに、食べる度に涙が零れる。


(……それだけ、もがき苦しみながらも、前に進んで来たんだな……本当に凄いよ、ヴァルターさん)


急に泣き始めた時はギョッとしてしまったが、直ぐに涙が零れた訳を察し……自然と優しい目になり、心の中でヴァルターのこれまでの苦労を称えた。

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