周りがそうさせる
「もしかして……そういう事、なのか?」
「マスター、何か解かったのか?」
「解かったというか、仮説が浮かんだだけだ。でも……一応それっぽいし、俺の仮説が合ってるなら、今のヴァルターの状態に納得出来る」
ティールが思い付いた仮説は……スキルの所有者がどれだけ感情をコントロール出来ているか、そしてどれだけその感情に対する想いが強いか……それらによって聖剣技と暗黒剣技の技量が上がるのではないか。
それを直ぐにヴァルターへと説明する。
「それは……えっと、聖なる気持ちと、暗黒の気持ち……両方を持たなければならない、ということですか?」
「聖なる、暗黒なってのは少し解り辛いでしょう。そうですね……聖なる気持ちというのは、おそらく誰かを守りたいという気持ちが動力になっているのだと思います。だからこそ、ヴァルターは暗黒剣技と比べて聖剣技の技量が高い」
離れた場所で立っている騎士はティールが建てた仮説に対し、非常に納得し……反応を求められていないのに、何度もその場で頷く。
「な、なるほど。でも、それだと……暗黒剣技は誰かを壊すといった感情が動力、なのでしょうか」
「……個人的には、それは偏見だと思っています」
「偏見、ですか」
「そうです。暗黒という名を持つスキル有しているからといって、必ずしも所有者が悪人だとは限りません。もし、ヴァルターの記憶にそれらしい人物がいるのであれば、そういった偏見を持つ者たちによって囲まれた不遇な環境があったからこそ、最終的に悪人になってしまったのかもしれません」
「「ッ!!!!」」
ティールの考えを聞いたヴァルターだけではなく、同席している騎士も同様の衝撃を受けた。
「暗黒剣技は……相手を完全に壊してでも勝つ。それだけの覚悟が必要なのかと、思います」
「完全に壊してでも勝つ覚悟、ですか」
「その通りです。そうですね……聖剣技は守って勝つスキルで、暗黒剣技は勝って守るスキルなのかもしれませんね」
当然のことながら、ティールは転生者ではない。
この世界に生まれ……初恋に敗れながら運に、師に恵まれた子供。
ただ、そのティールの口から零れた言葉は、とある二人のヒーロー候補生の信念だった。
「守って勝って……勝って守る」
「矛盾、というのは少し違うかもしれません。ですが、個人的にはそういったスキルなのではと感じました」
「…………ティールさん、もう一度模擬戦をお願いします」
「分かりました」
まだ完全に命の恩人である指導者の言葉は理解出来ていない。
それでも、もがいても前に進めず真っ暗な空間に一筋の光が、道しるべが見えた。
(っ!!! まだ助言しただけだっていうのに、明らかに剣筋が変わった。やっぱり、先天性スキル故……いや、ヴァルター様がこれまでもがき苦しみながらも歩を進めてきた結果が身を結んだってところか)
まだまだティールのウォーミングアップ、遊び相手になるには及ばない。
それでも、誰の目から見ても動きに成長が感じ取れる。
(嬉しいのは解かる……俺もなんか嬉しいから解らなくもないけどな、ラスト。その笑みは早くしまった方が良いぞ)
どれだけヴァルターの動きが変わったのか調べるため、模擬戦に集中してはいる。
しかし……ラストがとんでもなく好戦的な笑みを浮かべているのが、後ろを振り向かなくても解る。
見る者によっては、色んな意味でヴァルターを狙っているのではないかと誤解されてしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ……次は、ラストさん、お願い、します」
「ヴァルター、落ち着いてください。もう魔力がゼロに近いです。まずは少し休憩しましょう」
ラストが良いぞと答える前にティールが間に入り、まずは休めと伝える。
(……そうだな。今はヴァルターの訓練だったな)
聖剣技と暗黒剣技をメインとして訓練となれば、当然魔力の消耗が激しい。
とはいえ宣言通り、マジックアイテムを使用しながら休憩を挟んで体力も回復させ、ラストとの模擬戦をその日の内に行った。
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