素直に受け取ることが大事

「やっぱり立派な屋敷だな」


フローグラ伯爵家の屋敷に到着後、屋敷の従者たちによってヴァルターが待つ訓練所に案内……される前に、当主であるギャルバの執務室に通され、アルクル・トリンスの時と同じく深く頭を下げられた。


「君たちのお陰で、息子と我が家に仕える騎士、魔法使いたちが死なずに済んだ。君たちの勇気と優しさに感謝する」


「ど、どういたしまして」


前回の一件でティールは学んだ。

一先ず貴族、貴族の関係者から礼を言われたのであれば、感謝の意は直ぐに受け取る。

そうすれば早めに頭を上げてくれ、こっちの緊張感は多少薄まる。


「こちらは君たちが騎士、魔法使いたちに使用してくれたポーション代だ」


「どうも」


こちらも「いえいえ、別に構いません」なんて言わずに受け取る。


「ウリプールでの一件は私も耳にしている……息子のことを、よろしく頼む」


「精一杯、務めさせてもらいます!!!」


貴族の……しかも中々に筋骨隆々な人物から頭を下げられるのは、相変わらず心臓に悪いと思いながらも、今度こそ訓練場へと移動。


「あ、ティールさん!! ラストさん!!!!」


二人が案内された訓練場は、兵士たちや騎士たちが使用している訓練場とは別の場所。


これは二人の実力を実際にその眼で見た騎士たちはともかく、そうではない騎士たちが二人に抱くかもしれない感情などを考慮したギャルバの配慮だった。


「どうも、ヴァルター様」


「てぃ、ティールさん。これからティールさんは僕の先生なんですから、その……様付けは止めてください」


「え、えっと……」


本人にそう言われては、呼び方を変えるしかない。


とはいえ、他の者たちにそれをどう思われるか、二人にとってそれなりに大きな問題。


ティールは訓練場に一人だけいる顔見知りの騎士に視線を向けると、苦笑いしながら頷き返された。


「わ、分かったよ。ヴァルター……それじゃ、体は暖まってるようだし、早速始めようか」


「はいっ!!!!!」


まずはティールとラストと交互に模擬戦を行い、聖剣技と暗黒剣技の腕を体感。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


休みを挟みながらとはいえ、ティールとラストを相手に連続で四回模擬戦を行ったため、ヴァルターは完全にスタミナ切れ状態になっていた。


「さて、ラスト。どうだった」


「……個人的にだが、聖剣技の方が上手く扱えていた気がするな」


「やっぱりそうか。俺も同じ感想だよ……後天的に手に入れた訳じゃないから、あんまり最初から差があるようには思えないんだけどな」


聖剣技と暗黒剣技、何が違い……どういった人物がそもそも上手く扱えるのか。


(純粋な技量な問題じゃないってのはこの前からずっと考えてた。聖剣技の完成度がニ十パーセントぐらいだとすると、暗黒剣技はまだ十パーセントを越えるか越えないか、それぐらいの完成度だ……何がそこまで差を生むんだ?)


実際に手合わせをして、ヴァルターが暗黒剣技の訓練を怠っている様には見えない。

寧ろ聖剣技ほど上手く扱えてない故に、必死で技量を上げようと努力している。


「聖と暗黒……光と闇……これが差に繋がってるのか?」


「剣技という点を一旦抜きにして考えるという事か」


「だってさ、ヴァルターの技量的に、剣技の腕は問題無いだろ」


「うむ、それはそうだ」


「…………」


憧れに近い感情を抱く二人に褒められ、無言で照れるヴァルター。


(……聖と暗黒、光と闇。これを……ヴァルターの中、精神に当てはめてみるか?)


聖剣技と暗黒剣技……聖剣技を習得しているからこそ絶対に善人、暗黒剣技を習得しているからこそ絶対に悪人という訳ではない。


しかし、それら二つが全くの逆位置に存在する剣技であることに変わりはない。


(頭がこんがらがりそうだ。いや、でももうちょいでこう、何かが来そうだ)


数分後、一つの仮説が頭の中に浮かんだ。

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