まだ視てないから解らないけど
「マスター、普通に考えてあり得ると思うか?」
強烈な武者震いをしたものの、やはり違和感は残る。
ゴブリンとは……確かに厄介な側面を持つモンスターであり、一部の上位種は戦闘面に関しても厄介な存在である。
しかし、基本的には弱い。
オークやオーガ、リザードマンなどの同じ人型のモンスターたちと比べれば、その差は一目瞭然。
「……普通に考えれば、あり得ない話だな」
そんなゴブリンに対して、ヴァルガングという巨大な青狼はBランクモンスター。
常識的にゴブリンという下等モンスターに従う様な怪物ではない。
「でも、ゴブリンの群れのトップが、非常に魔法……精神に作用する力に長けた個体なら、あり得なくはない話……なのか?」
「可能性としては否定出来ないが、そういった精神系の攻撃は発動するまで多少なりとも時間がかかる。であれば、その間にヴァルガングの爪が喉に届くと俺は思うのだが」
「だよな~~~。でも、実際にその光景を見た人がいる訳だし……まっ、世の中あり得ないと思うことが起こることは珍しくない」
「……それもそうだな」
先日、形だけとはいえAランクドラゴン、岩窟竜レグレザイアに挑んだ。
ラストからすれば、年齢的にあり得ないと思える体験であったのは間違いない。
「とりあえず、面白そうな話ではあるよな」
「マスター……ニヤニヤしているが、のんびりと休息を楽しむんじゃなかったのか?」
「はは、そうだったな。でもさ、多少の刺激は楽しみの内に入るだろ」
決して油断して良い相手ではない。
Aランクモンスター程ではないにしろ、Bランクモンスターは多くの冒険者にとって脅威になる存在。
今のティールの発言は、どう聞いて油断し過ぎ……そう思われるてもおかしくない。
だが、パーティーメンバーであるラストは、主人の発言を咎めようとはしなかった。
(何と言うか、出会った時から異質な雰囲気を纏っていたが、こう……最近は貫禄の様なものが身に付いてきたな)
十四歳で貫録など、何をバカな話をしているのか……と、才能ある若者を妬む害はラストの考えにケチを付けるだろう。
だが、実際にラストの目の前でその様な発言をすれば……喧嘩を売ってきたとみなされ、鉄拳が飛び出す……かもしれない。
「ふっふっふ、流石マスターだ。では、明日から直ぐに捜索を始めるか?」
「その方が良いだろうな。あんまりちんたらしてたら、他の冒険者たちに奪われそうだ」
被害を受けながらも生き延びた冒険者が聞けば「これは競争じゃないんだぞ!!!!」と真剣な……もしくは怒りと悲しみが混ざった表情で怒鳴り散らす可能性が高い。
それはそれで間違ってはいない。
被害を受けた当事者たちからすれば、冒険者たちが一丸となって討伐しなければいけない難敵。
だが……ティールからすれば、そんの知った事ではない。
寧ろ、何故そんな個人的な理由でこちらの考えを否定されなければならないのか、という反論が飛び出す。
翌日、朝食を食べ終えた二人は冒険者ギルドに寄ることなく、早速朝から街を出てゴブリンの群れとヴァルガング、プラス共に行動しているウルフ系のモンスターを探し始めた。
「…………」
「何をそんなに考え込んでるんだ、ラスト」
「昨日の話の続きを考えてた。何故、ゴブリンというモンスターにヴァルガングというモンスターが従っているのか」
世の中、割とあり得ないと思っていることが起こるもの。
主人が教えてくれた事実なのだと理解出来た。
ただ……それでもゴブリンがヴァルガングを従えている……何故???? という疑問が消えることはなかった。
「何故ヴァルガングが、ゴブリンというモンスターに従っているのか、か……俺は実際にそのゴブリンのトップをまだ視てないから解らないけど、ヴァルガングは……そのゴブリンに対して、何かを感じ取ったんじゃないか?」
「……興味深い内容だな」
昼食時までずっとティールが伝えてくれた内容を考え続けるラスト。
とはいえ、きっちり仕事は果たしており、気配だけを頼りに襲って来たモンスターに大剣を振りかざし、全て一刀両断で斬り捨てた。
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