濃過ぎる一年

「んじゃ、そろそろ行くよ」


「またいつでも帰って来いよ」


「これからも手紙は定期的に送ってね」


「またな、ティール」


家族との別れを済ませ、今回は一度旅立った方向とは逆の方向から旅立つ。


ジンやリース、村長やロウとは既に挨拶を済ませている。

二人は偶々早く起きていた村人たちに軽く挨拶をしながら村を出発。


「ところでマスター、こういうところを目指すといったぼんやりした考えはあるのか?」


「いや、全くない。村から初めて旅立つ時はまずはここに行こう!! って目的地があったけど、冒険者になって……一年過ぎか? たかが一年だけど、それなりに冒険したからな」


「うむ、確かにその通りだな」


ラストはまだ奴隷になる前、いずれは岩窟竜レグレザイアの様な本物のドラゴンに挑んでみたいとは思っていたが、その挑戦が叶ったとしても、自分の年齢は完全に二十後半……もしくは三十前半になるだろうと考えていた。


しかし、命懸けの勝負を行ったわけではないが、それでも本物のドラゴンに全力の攻撃を叩きこむという体験を行う事が出来た。


それなりに階層数があるダンジョンを攻略し、モンスターパーティーの討伐にも関わった。

裏の人間と戦うという危険なイベントに遭遇することもあり、どう考えても同業者たちの五十倍は濃密な一年弱を送っていた。


「冒険者として、戦う者として停滞するのはあまり良くないとは思う。思うんだが……俺たちって、まだ若いじゃん」


「そうだな」


当たり前過ぎる事実。


ティールは十四であり、ラストもまだ二十を越えていない。

年齢だけを考えれば、冒険者としてルーキーもルーキー。

しかし、その中身……実力に関しては、ベテランを飛び越えて一流の域に到達している。


「だから、少しぐらいはゆっくりする時間があっても良いと思うんだよ」


「ふむ…………しかしマスター、先日の里帰りは休暇じゃなかったのか?」


「里帰りは里帰りだ。確かに休暇と言える期間だったかもしれないけど、ぶっちゃけ十日も休んでないだろ」


「……確かに、俺たちは普段冒険者として活動している日数、時間、内容などを考えれば、休暇には入らないか」


二人ともアホみたいにスタミナがあるため、一度スイッチが入ってしまうと、マグロの様に動き続ける。


動いていないと退屈過ぎるというモードに入れば、同業者たちが超ドン引きするほど動く。

ただ、それだけ動いて依頼を受けたり素材や魔石を売却してくれると、冒険者ギルドとしては非常に助かる。


「そうだろそうだろ。だから、これから一年間ぐらい、特に面白そうなことがない限り、のんびりと国内を旅しようと思うんだよ」


「……それはそれで悪くないな」


「目的がないと寂しいかもしれないと思って、訪れた街で有名どころの料理店の評価でも付けようと考えてる」


「評論家と言えるほど舌は越えていないが、面白そうな目的だな」


美味い料理を食べるのが嫌いな者などいる筈がない。


そんな話をしながら道中で襲い掛かってくるモンスター、盗賊を潰し……出発から五日後、カルパンという名の街で一夜過ごすことにした。


そこそこ大きい街だったこともあり、到着した夜は酒場で夕食を取ったが、翌日からは有名どころを周って食事を取ろうと決めた。


「また殺されたらしいぞ」


「マジかよ……こりゃ、そろそろ本格的に討伐隊を組んで、早い内にぶっ潰した方が良いんじゃねぇか」


「村の女とかも攫われてるらしいしな」


「でもよ、たかがゴブリンの群れじゃねぇってのが難しいところだよな」


「だよな~~~~。なんでゴブリンなんかにヴァルガングなんてバカ強いモンスターが従ってんだか」


「「ッ!!??」」


こっそり聞き耳を立てていたティールとラスト。


最後の最後に耳に入ったモンスターの名を聞いて、二人は武者震いした。

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