吐いて当然

「んじゃ、ティールとラスト。そいつらの事を頼んだぞ」


「任せてください」


別の日、畑の仕事を終えた子供たちは現役冒険者の二人と一緒に狩りへと向かう。

そこにジンに指導を受けている者たちの他に、リースの現一番弟子であるシーアもいた。


「既に何回かはモンスターと戦ってるんだよな」


「はい!! でも、ランクはFやEと低く、その……俺たち全員、揃って吐いてしまって」


ロウたちにとって多くの衝撃を受けた日であり、ほんの少し苦い思い出でもあった。


だが、ティールはその話を笑い飛ばす。


「はっはっは!!! そんな事気にする必要ないぞ。俺だって人型のモンスターを倒して中身を見た時、盛大に吐いたからな」


「えっ、そうなんですか」


「勿論吐いたぞ。というか、あれを初めて見て耐えられる奴なんていないんじゃないか? なぁ、ラスト。お前はどうだった?」


「……ギリギリだったな。しかし、強い不快感を感じたのは間違いない」


ラストは戦闘者としての童貞を捨て、モンスターの中身を見た時……強靭なメンタルで吐くことこそなかったが、それでも後少し強烈な何かがあれば、ダムが決壊していてもおかしくなかった。


「おぉ~~~、でも吐かなかったってのはすげぇな。けど、とりあえず皆不快感を感じてそうなるもんだから、そこは恥じる必要はないと思うぞ」


現役からの言葉を受け、少し心が軽くなったロウたち。


「ッ……向こうにゴブリンが三体いるけど、戦るか?」


「「「「はい!」」」」


「やります」


シーアも含め、五人で三体のゴブリンに突貫。


俺は一人で倒すんだ!!! といった変にカッコつけたがりな迷惑者もいないため、瞬殺とはいかなかったが、そこまで時間をかけず……尚且つ、目立った怪我もなく討伐に成功。


「お疲れ、少し休もうか」


「はぁ、はぁ……はい」


圧倒的に数が有利な状態での戦闘。


それでもロウたちの疲労は、決して小さくない。

先日ティールとラストという、明らかにゴブリンより戦闘力がバカ高い二人と模擬戦を行っていたが……改めて模擬戦と実戦は別物なのだと思い知らされていた。


ゴブリンが放つ殺気は、実力以上にロウたちの精神力をゴリゴリに削っていた。


(……何かアドバイスした方が良い感じ、かな?)


良いアドバイス内容はないかと、頭をフル回転。


「次の戦闘前に言っておくな。お前らは毎日良く頑張ってる」


「「「「「……」」」」」


とりあえず監督役であるティールが何かを喋り始めたため、全員静聴。


「畑の仕事もこなした後にジンさん、リースさんの訓練を受けて……本当に毎日頑張ってる。そんなお前たちに後足りない部分は、モンスターの殺気に圧されない自信だ」


「あまり自信を持ち過ぎれば隙へと繋がるが、まずメンタルで相手に押されていれば、勝てる戦いも勝てなくなってしまうだろう」


マスターがロウたちにアドバイスを始め、自分も何か伝えた方が良いのだろうと思い、ラストも何かしら少年たちの力になればと思い、助言を口にする。


「ラストの言う通りだ。お前たちの技術は既に十分。身体能力に関してはこれからの成長と、モンスターを倒せば徐々に上がっていく。だから、もっと自分の努力に自信を持って戦うんだ」


「「「「「は、はい!!」」」」」


基本的に大人しいシーアも二人のアドバイス、励ましによって気合が入る。


(ん~~~~……我ながらちょっとカッコつけ過ぎたか? でも、皆本気で頑張ってるのは事実だし、正直……よっぽどレベルが高いゴブリン……ゴブリンエリート? 的な奴以外のゴブリンなら、そんなにビビらなくても良い気が済んだよな)


(……マスターは自身を教師には向いていないと断言していたが、こういうところを見ると教職に向いていると思えてしまうな)


ティールがそういった依頼を受けたくないと解っているので、ラストは思っても口には出さなかった。

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