特に文句なし

「動きが雑になってきてるぞ」


「ッ、はいっ!!!!」


実家に居る間、ティールは基本的に将来自警団の一員になる……もしくはティールと同じ様に冒険者になりたい子供たちの模擬戦相手を行っていた。


「ティール、こう……暗殺者っぽい動きとか出来るか?」


「暗殺者っぽい動きですか……やってみます。武器は双剣とかで良いですよね」


「そうだな。それで頼む」


仮に冒険者の道に進め、ティールの様に裏の人間、暗殺者に狙われるケースはレアかもしれないが、順調に冒険者としてのキャリアを積んでいけば、盗賊と戦うことは珍しくない。


「一応最初に伝えておく。俺はお前の死角を狙って動く。まっ、他の動きも混ぜるんだけど……とりあえず、眼に見えない攻撃を意識するんだ」


「??? は、はいっ!!!」


あまり理解出来ていないが、とりあえずはいと気合良く答える。


「それじゃ、いくぞ」


「ッ!!??」


ティールが両手に持つ双剣は当然、木製の物。

しかし、当たればそれなりに痛い。


「おっ、やるじゃないか。そういう感じだ。どんどんいくぞ!」


「押忍っ!!!!!」


最初に一撃は……偶々躱せただけだった。

途中から何度も何度もティールが振るう双剣が少年にぶつかる。


「っし、ちょっと休憩な」


「は、はい…………」


「そんなに落ち込むことはないと思うぞ。最初の一撃は上手く避けられただろ」


「でも、最初だけで後の攻撃は……」


最初の一撃だけしか避けられなかった。

その事実に少年は落ち込むが、ティールとしてはまぐれでもその成功体験が大切だった。


「最初の一撃、なんで躱せた?」


「えっと……なんか、こう……ぞわぞわって感覚が襲ってきました」


「もしかしたら感覚派なのかもな。それじゃ、次からはそのぞわぞわって感じを意識してみるんだ。目が、肌が、毛が……心がぞわぞわした方向から攻撃が飛んでくると思うぞ」


「はいっ!!!!」


ティールとしてはまだまだ伝えたい事があるが、これ以上伝えれば頭がパンクしそうだなと思い、次の少年との模擬戦に移る。


「……」


それを少し離れた場所から見ていたロウはほんの少し、ティールから指導を受けていた同世代の少年に嫉妬。


そんな感情を持ちながらも、歳頃にしては聡いロウは直ぐに意識を切り替え、次に回ってくるラストとの模擬戦に意識を集中させる。


「あだっ!!??」


「身長差的に上ばかり意識してしまうのは仕方ないが、もう少し下半身よりも下を警戒した方が良い」


「は、はい!!!!」


「よし、交代だ」


自分の番が回ってきたロウは一層気合を入れ、丁寧に頭を下げて構える。


(……気持ちが昂ると、逆に冷静になるタイプか。実戦に向いているな……さすがマスターの弟子、か)


ラストが幼いながらに整っているメンタルに感心していると、気合の入って一閃が下から襲い掛かる。


「ッ! ハッ!!!!」


(力では絶対に敵わないと解っているからこその連続攻撃。攻撃の一部にはフェイントが組み込まれている。やはり、ロウが少年たちの中では頭一つ抜けているな)


連撃の中にフェイントを入れるどころか、途中で先程チラッと見たティールの暗殺者流の動きをコピー。


本職の動きや、身体能力で技術面をカバーしているティールの動きには劣るものの、決して悪くない奇襲方法だった。


(はっはっは! 本当に熱くならない様に注意しないといけないな)


まだティールほど手加減が上手くないラスト。

彼の身体能力でミスをしてしまえば、ロウたちの大けがを負わせてしまうのは目に見えている。


「うぐっ! ……ま、参りました」


「良い動きだった。特に文句はない。このまま腕を上げれば、そう遠くない内にDランクのモンスターを一人で倒せるようになるだろう」


「っ……ありがとうございます」


ティールからの言葉ではないが、それでも嬉しいことに変わりはなく、嬉しさでほんの少し頬が赤くなった。

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