身体能力が追い付けば
「よぅ、ロウ。元気にしてたか?」
「師匠!!!!」
ティールを師匠と呼ぶ人物は、ティールが投擲の訓練をしていた頃から弟分的存在。
現在はジンの指導の下、同性代の子供たちと一緒に訓練を行っていた。
「ロウ……ジンさんがいる前で、師匠ってのは止めてくれないか」
「いえ、師匠は師匠ですから!!」
ジンの方に顔を向けるも、「別にそんなこと構わねぇよ」といった反応を返され、ジンが気にしてないのであれば……もうティールがどうこう言えることはない。
「この子が、マスターが偶に話す弟分、か?」
「弟分って、まぁ~~……一応そうなるのか」
毎日毎日稽古を付けていた訳ではない。
しかし、本当に手が空いていた時には稽古を付け、自身が実戦で体験した内容を伝えていた。
「あなたが、師匠のパーティーメンバーのラストさんですね」
「あぁ、その通りだ」
ラストを見つめるロウの眼には……複雑な感情が宿っていた。
ロウにとって、ティールはまさに憧れの存在。
先日宴会時に話してくれた冒険譚の内容は全て信じており、興奮が止まらなかった。
できることなら……隣に立ち、その冒険譚の一部になりたい。
しかし、既にそこには一人の竜人が立っていた。
年齢的な開きは当然として……一目だけで、普通ではないと解かる。
まだティールの様な頭おかしい経験は積んでいない。
それでもジンの的確な指導があるお陰か、本能的にラストがティールの隣に立つ人物に相応しいと認めていた。
とはいえ、本能がラストを認めていたとしても、悔しさが消える訳ではない。
「……ラストさん。お願いがあります」
「ふむ、なんだ」
「俺と、模擬戦してください」
「…………ふふ。良いだろう」
ティールに了承を貰う前に承諾。
(えぇ~~~……何、この展開?)
止める意味はなく、ロウにとっては良い経験になる。
ラストも嫌な顔をしていない為、ここで主人であるティールが何かをする必要はない。
ただ、何故この様な状況になったのかが解らない。
「良かったな、ティール。お前の弟子はまだまだ師匠のことが大好きらしいぞ」
「大好きって…………解ったような、解らないような」
しっかりとティールが目の前の流れを理解する前に、二人の模擬戦がスタート。
他の生徒たちも一旦手を止め、二人の模擬戦を観始めた。
「まっ、当然こうなるよな」
内容は、ただただロウの全力をラストが受け止めるといったもの。
ティールもそうなる事は予想していたため、特に驚くことはない。
体格差や経験、種族の差などを考えれば、ロウが一方的に挑む形になるのは、至極当然。
とはいえ、昔からロウのことを知っているティールとしては、その成長に感心するところがあった。
(対人戦の技術に関しては、俺が村を経ってからまた一つ、全体的にレベルが上がった気がするな。技術という点に限っては、もう同世代の中では一番なんじゃねぇのか?)
ティールの予想通り、剣技の腕前戦闘中の技術に関しては、同世代でロウに敵う者はいない。
そして決して体格も悪くないため、斬撃の重さも歳の割にも良い重さをしている。
(ふむ、マスターの弟分なだけあって、技術の面に関しては……現在の年齢を考えれば、殆ど文句なし。加えて、時折虚を突く動きも悪くないな)
主人と同じく、ラストもロウの年齢らしからぬ技術と動きに感心していた。
とはいえ、まだまだスタミナ不足という課題もあり、ロウの全力を受け切ったうえで、ラストの木剣がコツンと頭を叩き、決着。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ、ありがとうござい、ました」
「良い動きだった。これから実戦経験を多く積めば、次第にその動き、技術に相応しい身体能力が身に付く。これから精進し続ければ、いずれ俺たちが戦ったモンスターにも勝てるかもしれないな」
ロウからすればライバルに近い存在ではあるものの、その言葉には素直に嬉しさを感じた。
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