超熱中

師の二人と色々楽しく話した翌日、ティールは兄のセントが世話になっている鍛冶場へと向かう。


「どうも、親方」


「おう、ティール。なんつーか……厚くなったな」


「えっ、太りました? 確かに毎日そこそこ食べてますけど、その分動いてると思うんですけどね」


「アホ。そういう意味じゃねぇよ」


纏う空気が厚く、重く感じる。

ティールもなんとなくは理解していたが、思わず自身の腹を摘まんで確認してしまった。


「昨日はあれだ、酒と飯は美味かった」


「それは良かったです。あっ、そういえば親方に用事があって来たんですよ」


「俺に用事ってなんだよ」


日々何かしらを造って生活を送っているが、もうティールに相応しいレベルの武器を造れるとは思っていなかった。


そんな生意気にも強く育った小僧が亜空間から取り出した者は……やや大きな箱。


「どうぞ」


「お、おぅ。なんか……やけに大きいな?」


「まぁ見てください」


言われるがままに箱を開けると……そこには鍛冶師である親方にとっては、目も眩むような高品質の仕事道具が入っていた。


「てぃ、ティール、お前……こ、これは」


「親方へのお土産です」


「お、おぅ。そうか…………ってなるか!!!」


お土産、という理由で納得出来るような物ではない。


「お前、こりゃ……み、ミスリル、だろ」


「流石親方、直ぐにバレましたか」


「鍛冶師の勘ってやつだ。いや、しっかし土産つったってよぉ……お前、これ全部で幾らしたんだ?」


聞いたら気を失うかもしれない。

もしかしたら……最悪、失禁してしまうかもしれない。

とはいえ、こんな高級仕事道具を大量に貰っておいて、訊かない訳にはいかなかった。


「いやいや、そんな無粋なことは言いませんよ。いつもセント兄さんが世話になってる礼なんで」


「そりゃお前、ありがてぇけどよ……」


「兄には兄で、それなりの仕事道具をお土産として渡してるんで、気にしなくても大丈夫ですよ」


「そ、そうか」


親方が気にしていることをあっさりと見抜き、問題無いと伝える。


「……ありがとよ。素直に受け取らせてもらうぜ」


「存分に使ってください」


「おうよ!! ……つっても、こういった村だから、そんなにがっつり使う機会はないんだけどな」


普段造っている道具を造るのに、ミスリル製の道具を使っても問題はない。

問題はないが……やはり勿体ないとう気持ちがある。


「それもそうですね……あっ、親方。それなら……」


「……おぉ~~、それは……マジか」


「えぇ、マジですよ。炭とかも大量に買ってきてるんで、安心してください」


「本当に気の利く野郎だな……よぉおおしっ!!! 夕方過ぎになったら、連中を集めねぇとな」


ティールが親方に伝えた内容とは……今までティール、ラストの二人が倒して手に入れてきたモンスターの素材や魔石を使用し、自営団のメンバーたちの武器や防具を造ること。


規格外の空間収納を持っている為、素材は幾らでも……どんな種類でもある。

本能一部ではあるが、Aランクモンスター……岩窟竜、レグレザイアの鱗すらある。


「ティール……今のうちに少し素材をくれねぇか。マジの素材を造る感覚を取り戻しておきてぇ」


「勿論、構いませんよ。でも、出来上がった武器は俺にも見せてくださいよ」


「おうよ」


Dランクモンスターの素材と魔石、鉱石をいくつか渡す。

ここから夕方過ぎになるまで親方の熱が冷めることはなく、久しぶりの大仕事に向けて超熱中し続けた。


傍にはセントもいるため、超熱中し過ぎでぶっ倒れる心配はない。


「……ティールさんは本当に太っ腹だな」


「否定はしない。でもさ、大量の金を溜め込むだけ溜めても仕方ないだろ。どこかでパーッと使わないとさ。別に俺ら金には困ってないし」


「太っ腹なだけではなく、やはり器も大きい」


金に苦労している冒険者が聞けば、理性を振り切って殺しに来そうだが……ティールとラストからすれば、金がなくなってきたら本気で稼げば良いだけの話であるのは、紛れもない事実だった。

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