疎かになると、死ぬ
「にしても、いきなりBランクのモンスターにソロで挑んだって話を聞いたときは、かなりびっくりしたぜ」
「ジン……あなた、笑い転げてなかった?」
うんうんと頷きながらティールを心配していたと口にするジンに対し、ジト目で睨むリース。
「そりゃお前、ソロで挑んで結局倒しちまったんだ。驚き過ぎて笑い転げるに決まってるだろ」
「……反応に困るところね」
リースもその話を聞いたときは、勿論驚きを隠せなかった。
しかし、ティールの実力を深く知っている者として、数分も考え込むと……あり得なくもないなと納得していた。
「ジンさん、そんなに笑ってたんですか? 俺、一応あの戦いの後、ぶっ倒れたんですよ」
「その話も聞いたぜ。にしても、ダチになった連中を守るためにBランクのモンスターに……よりによってブラッディ―タイガーに挑むなんてな」
「もしかして、過去に戦ったことがあるんですか?」
「いや、先輩冒険者が戦ってるところを見たことがあるだけだ」
ジン自身は実際にブラッディ―タイガーと戦ったことはない。
それでも、記憶を掘り返せば当時の光景を鮮明に思い出せる激闘の一つだった。
「いくらティールでも、その豹雷って武器がなかったらヤバかっただろうな」
「ヤバいどころの話じゃなかったですよ。まっ、緊張感で言えば、ヤドラスの遺跡で遭遇した黒衣の四人組との戦いも負けてませんでしたけど」
「? それは手紙になかった話ね」
ティールは家族を一応心配させない為にも、冒険とはあまり関係無い件に関しては、手紙に記していなかった。
「貴族の学園所属の学生を護衛してたんですけど、途中で怪しげな四人組に遭遇してしまったんですよ。キラータイガーとの遭遇よりも、あの四人組との遭遇の方が命の危機を感じました……本当に、ラストがいなきゃ危なかったです」
「護衛中か~。そりゃ確かに、ブラッディ―タイガーを倒してレベルアップしたティールでも厳しいかもな」
「万全な状況であれば、マスター一人でもなんとかなった筈だ」
それでもティールは強いと主人を褒める。
しかし、その褒め言葉にはさすがにティールも苦笑いを浮かべる。
「そりゃさすがに褒め過ぎだ、ラスト。自分が全体的に平均以上の力を持ってるのは自覚してた。でも、それは向こうも同じ話だっただろ」
ティールは二人にその当時襲って来た四人組の強さを伝える為、亜空間の中から四人の内、一人が使用していた武器……オーバーサイズを取り出す。
「これが、その内の一人が使ってた武器です」
「ほぉ~~~……中々切れ味が鋭そうな得物じゃねぇか」
「ティール、これに鑑定を使っても良いかしら」
「えぇ、勿論」
ランク五のマジックアイテムであり、腕力強化と斬撃の飛距離と範囲と速さの強化。
それらに加えて、生物以外の存在をすり抜けることが出来る凶悪な効果。
オーバーサイズの詳細を知ったリースは、改めて自分の教え子はとんでもなく強いと再把握。
「ティール……良く生き残ったわね」
「運が良かったというのもあります」
謙虚が過ぎると思われる発言に対し、ジンは一切茶化さなかった。
「運の良さもあっただろうな。冒険者が意外と死ぬケースは、対人戦の技術が疎かにしてる場合に起こる。ティールに関しては……俺と偶に戦ってたし、そこら辺が活きたかもな」
「はは、確かにそうですね」
「その一件は確かに可哀想というか、不幸だと思うが……あれだな、ティールだけに要点を絞れば、バカがラストを口説こうとしたのが……また、爆笑ものだよな」
ジンの言葉選びに少しの苛立ちを感じたものの、当時と比べて少し大人になったこともあって「他人から見れば、そう思うものか」と冷静に受け入れる。
「は、ははは。あれに関しては……もう少しこっちの立場も考えてくれって思いましたね」
恋する乙女の暴走は恐ろしい、ティールにとってそんな教訓になる一件だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます