帰郷

「はぁ~~~……美味かったけど、疲れたな」


「そうだな。確かに出された料理はどれも美味かったが……予想以上に疲れた」


普段は絶対に足を踏み入れないような空間に足を踏み入れる。

それが解かっていたからこそ、多少は心構えをしていたものの、いざ貴族のエリアに入ると……予想以上に驚きと緊張が二人を襲った。


「にしても、また金が増えたな」


「黒曜金貨二枚だったか……何に使うんだ? 俺としては、マスターがギャンブルに使いたいと言っても、止めはしないぞ」


「いや、それは止めてくれよ」


最近は足を運んでいないが、それなりにギャンブルが嫌いではない二人。

いくらカジノでも、黒曜金貨二枚もの資金があれば、そう簡単に底をつくことはなく、少なくとも数時間は遊び続けられる。


(とはいっても、結構大金が溜まってきたのは事実だし……ぱ~っと使うのはこう、ありな気がする。勿論、俺たちのため意外に使う気はないけど)


他人の為に使う気は一切ない……であれば、他人じゃない相手であればどうだ? という考えがティールの頭に浮かんだ。


そう他人ではないない相手とは……家族。

繋がりで言えば、パーティーメンバーであるラストよりも濃い存在。

定期的に手紙を送って近況は伝えているが、毎回近況を伝えるたびに色々と心配されている。


「……なぁ、ラスト。一回実家に帰ってみても良いか」


「ほぅ、マスターの実家か……あぁ、勿論構わないぞ」


強さという点に関して、もしや両親……家族が関係しているのでは? と考えたことはある。


主人にキッパリそれはないと否定されたため、その可能性は限りなく低いと解ってはいるものの、やはりラストにとって気になる存在ではある。


という訳で、一旦新しい目標を探すのはストップ。

ティールは村で生活している時に世話になった人たちを思い出し、土産を買い始めた。


ラストからすれば、それは本当に必要なのか? と思う物も大量に購入。

そしてお土産を全て買い終わり……次の日の朝には出発。


二人の速さを考慮しても……さすがに一日では到着できないため、幾つかの街を経由して進み……五日以内には故郷に帰ってきた。


(我ながら、力だけではなく脚とスタミナも向上しているな)


自慢のパワーだけではなく、その他の部分も成長していると改めて実感し、ご満悦の様子。


「ん……お、おい。もしかしてティールか!?」


「こんにちわっす!」


街を出発した時と比べて身に付けている物が大きく変化しており、何より隣にどう見てもゴツイ竜人族の青年を連れているため……本当にティールなのかと一瞬疑いはしたが、幻でもなく本当にティールであることが確認出来た。


「おいおいどうしたんだよ、帰ってくるって聞いてないぞ」


「いや~~、別にサプライズってわけじゃないですけど、久しぶりに帰ってこようかなって思って」


「そうかそうか。まっ、とりあえずおかえり」


「ただいまっす」


村の中に入ると、ティールに気付いた村人たちは大なり小なり驚きながらも、笑顔で声をかける。


「……マスターは、村人たちから慕われているのだな」


「いや、別にそういうのじゃないと思うけど……けど、子供ながらにあまり迷惑をかけずに過ごしてたかな」


本人の言葉通り、両親と兄に心配だけはかけていたが、結局のところ迷惑はかけていなかった。


それどころから、狩りで得たモンスターの肉などを分け与えていたりしてたので、多くの村人たちからは色々と不思議だけで良い子、というイメージを持たれていた。


「ここが実家なんだけど……まだ皆仕事中なのかな」


基本的にティールの両親は農作業を行っており、兄であるセントは家事見習いとして親方の元で働いていた。


「うぉっ!!?? てぃ、ティール……だよな?」


「ただいま、兄さん」


久しぶりに弟の顔を見た兄は喜び、父と母も同じく喜びはしたのだが……帰ってくるなら、先に手紙で連絡してくれと軽い説教を受けた。

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