やめた方が良いと思う
(豪華なんだろうなとは思ってたけど……なんじゃこりゃ)
煌びやかな室内を見て、ティールは初めてダンジョンを探索した時と同じ感想を抱いた。
(これが貴族の屋敷、というものか)
爵位によって差はあるが、伯爵家であるトリンス家の屋敷であれば外装、内装共に一般人が殆ど見ることがないほど豪華なもの。
そんな建物中に入り……ティールはなるべく驚きを表に出さない様に必死で取り繕っているが、ラストは違った。
ティールと同じく驚きこそあったが、今は……もし万が一の可能性が起きたら、という考えが頭を支配していた。
その考えとは……何かしらの理由でトリンス家に仕える騎士と喧嘩になった時。
普通に過ごしていればそんなことは起きないのだが、ティールの冒険譚は……色んな意味でその普通を覆してきている。
故に、悪い意味で常識を覆してしまう可能性は……絶対にあり得ないと、否定出来るものではなかった。
「こちらが、私の執務室になる」
アルクルの執務室に通され、二人は促されるまま絵に高級ソファーに腰を下ろす。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
メイドが淹れた紅茶に対し……一応、一応ではあるが、ティールは鑑定を使用して中に何も入っていないことを確認し、口に含んだ。
せっかく淹れてもらった飲み物に対して鑑定を使用するなど、失礼極まりないということは理解している。
しかし……二人の師から、貴族とは本当に中々に信用ならない人物たちだと聞かされている。
今回のティールとラストと、トリンス伯爵家の関係を考えれば、飲み物や料理に毒物を入れられることはあり得ない。
そんな事はティールも解っているが、それでも師たちの教えが最優先。
「……本当に、ありがとう。君たちのお陰で、娘の……ベティの命は救われた。ありがとう」
「「っ!!??」」
アルクルは、自身がどれだけ二人に感謝しているのかを示す為、テーブルに頭が尽きそうなほど腰を折った。
「その、俺としては報酬が魅力的だったり、そもそもドラゴンの涙に興味があったりしたので……その、とりあえず頭を上げてください」
慌ててアルクルに頭を上げてくれと伝える。
その隣で、ラストは貴族が自身の娘を助けた冒険者……恩人とはいえ、平民である主に腰を思いっきり折って感謝の言葉を述べるとは予想しておらず……完全に固まってしまっていた。
「そうはいかない。確かに、実りがある依頼ではあったかもしれない。しかし……君たちはまだ若い。強くとも、まだまだこれからがある若者だ。にも拘わらず……君たちはあの岩窟竜に立ち向かった……君たちの勇気には、感謝しかない」
一度は顔を上げたものの、アルクルは再度深く頭を下げて感謝の意を示す。
ティールは少し離れた場所に立つメイドに助けを求めるが、メイドとしてもベティの命を救った恩人である二人には感謝しかないため、主人の行動を止めようとはしなかった。
「いや、その……あのですね、実は」
相手が相手であるため、あまり感謝過ぎるのは変な気分になる。
そう感じたティールは……いったいどうやってドラゴンの涙を手に入れたのか、その方法について軽く話した。
「っ…………そ、そんな方法で……いや、なんとも大胆と言うべきか」
アルクルだけではなく、メイドまで表情に驚きを隠せなかった。
「なので、俺たちは岩窟竜……レグレザイアを倒したわけではありません。その……少し仲良くなって、試練を乗り越えた結果、ドラゴンの涙を手に入れることが出来たんです」
「うむ……一応実行した本人の口から聞きたい。もし、他の者たちが二人と同じ様な真似をすれば、どうなる?」
ドラゴンの涙の貴重性を考えれば、アルクルが二人にその内容を訊いてしまうのも無理はない。
「そうですね…………おそらくですが、即座にぶっ飛ばされるか……一応チャンスは貰える。ただ、試練の内容は自分たちの時より過激になるかと」
「そ、そうだよね……うん、聞かなかったことにしてくれ」
回答したのは竜人族ではない、ただの人族であるティールなのだが、それでも現場で実際に実行した者の言葉には確かな重さがあった。
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