本気だったら死んでた

「それで、お主たちもドラゴンの涙を求めてここまで来たのだろ」


「はは、バレてしいましたか」


「長年生きてきた勘だ。ふむ……そうだな」


数秒間考え込んだレグレザイアは一つ、二人に提案した。


「儂は見ての通り、防御力に優れている。儂が今から最大の防御魔法を展開し……二人はその壁に向かって最大の攻撃をぶち込んでこい」


「……その壁をぶち破り、あなたにダメージを与えることが出来たら一応俺たちの勝ち、ということですか」


「その通りだ。さぁ、どうする……やるか?」


考える時間は必要なかった。


「やります、やらせてください」


「ふっふ、良い眼だ。さぁ……お主らの本気を儂に見せてくれ!!!!!」


土魔法、グレートウォールを何重にも発動。


(一つ一つが、ただのグレートウォールじゃないっ……はは、上等だ!!!!!!)


挑む状態となれば、先程までの畏まった態度は消え失せ、いつものモンスターを前にした表情に変わる。


ティールは強敵と戦う時に使用している疾風瞬閃や豹雷ではなく、ブラッディ―タイガーの素材によって造られたバスターソードの柄を全力で握りしめる。


(俺が、終わらせるつもりでやる!!!)


今、ここで魔力を全て消費するつもりで雷と風の魔力を纏い、強化系のスキルを全て発動。

後で襲ってくる疲れや反動など知った事ではない。


破壊力が高い代わりに反動がある剣術スキル、ブレイクスラッシュを発動。


「うぅおおおおおらぁああああああああアアアアアアアッ!!!!!!」


何重にも展開されたグレートウォールが一気に切断、破壊されていく。


(壊れろ、壊れろ、壊れろ!!! ぶっ壊れろ!!!!!)


反動で痛む両手など、どうでもいい。

難病で苦しんでる貴族令嬢? ……正直、どうでも良い話だった。

今は……目の前の壁をぶっ壊すことだけしか興味ない。


「ク、ソが……」


たった一つ、たった一つだけ切断しきれなかった。壊し切れなかった。


「マスター、後は任せてくれ」


心が落ち着かない。

心臓の鼓動が高まり続ける。

興奮が止まらない。


当然、ラストの頭にも難病で苦しむ貴族令嬢など、一切なかった。


(ダメージが少しでも入れば良い? ふざけるな!!!! 殺すつもりで、振り抜け!!!!!!)


ラストが手にした得物は牙竜ではなくティールと同じく、ブラッディ―タイガーの素材を元に造られた斬馬刀。


「グゥウウウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


完全竜化。

体の一部ではなく、全身を竜化。

その姿は……見るものが見れば、まさにドラゴン。


竜人族にとってドラゴンとは敬意と畏怖を持つ存在である。

だがそれと同時に、多くの戦士たちはそんな存在を越えたいという野望を持つ。


理屈ではない闘争心が爆発し……轟炎を纏わせ、渾身の一撃を……大地をも砕き割る会心の一撃を叩きこむことに成功。


(ぬおっ!? これはっ)


焦った。

岩窟竜、レグレザイアは間違いなくその瞬間、焦った。


もっと言うならば、ティールがブレイクスラッシュを放った瞬間にも焦りを感じていた。

その焦りから、自身の前にあるグレートウォールを途中で強化した。

だからこそ、ティールのブレイクスラッシュは最後の壁を突破できなかった。


そしてラストが攻撃してくる……その威力が、数秒後に起こる未来が解ってしまった。

本能が、最悪の結果を防ぐためにブレスで相殺という選択を取った。

勿論、放ったブレスはレグレザイアの本気ではない。


仮に本気のブレスを放ってしまえば、何も準備が出来てない二人はあっさりと死んでしまう。


「ぐわっ!!!???」


とっさの調整は出来ていたため、ラストはブレスの衝撃波で吹っ飛ぶだけで済んだ。


岩壁に激突したというダメージこそ負ったが、ラストにとっては大したダメージではない。


「はっはっは!!! すまんすまん。本当にすまんな。お主らの攻撃があまりにも凄かったもんだから、ついやってしまった。すまんな!」


怪我はなかったため、二人はその事に関しては特に追及することはなく、結果を求めた。

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