一応麻痺してない
ティールとラストは岩窟竜、レグレザイアと昼食を食べて以降……彼の元に足を運んでいなかった。
どんな冒険者たちが挑み、どう負けた……誰が死んだという話はいくつも耳にする。
(よくもまぁ、そんなに死に急ぐものだ)
話を聞くたびに、ティールは亡くなった者たちの蛮勇を褒め称える気にはならなかった。
居座っているモンスターが、通常種ではないワイバーン。
Bランクの属性ドラゴンなどであれば、猛者たちが挑むことに呆れを感じることはない。
だが……岩窟竜は、正真正銘Aランクモンスターという怪物。
中堅都市であれば、容易に破壊する力を持つ。
まさに圧倒的な怪物に最高でも六人という人数の少なさで挑むパーティーが殆ど。
(七割から八割の戦った人物が死なないと聞いて、油断して殺された奴もいそうだが……まっ、これ以上考えても意味無いか)
もう一度レグレザイアとゆっくり食事をしてから、ウリプールを離れる予定。
ラストも主人の予定に納得している。
ここ最近は岩窟竜と呑むためのワインを探し回っていた。
そんな中、一つのニュースが冒険者たちの耳に入り込む。
ドラゴンの涙を手に入れた者に、領主が黒曜金貨五枚を出す。
その話は岩窟竜にボロボロにされた敗者が流したデマなどではなく、実際に冒険者ギルドに出された全冒険者に向けられた依頼。
何故そんな依頼が出されたのかというと、領主の娘が難病にかかり、その難病を治す薬を作るのに、竜の涙が必要という……なんとも私情丸出しの依頼。
ウリープルの領主は決して貧乏ではない。
裕福な部類ではあるが、一応という言葉が付く。
「マスター、どうしますか?」
「ドラゴンの涙の件か」
「あぁ、その通りだ」
「どうするかと言われてもなぁ……一応悩んではいる」
もう目立たずに行動しようという意志はない。
同業者から売られた喧嘩に一応対応することも増えているため、もう二人は十分過ぎるほど冒険者界隈で目立っている。
「だって、必要なのはドラゴンの涙だけだろ」
「そういうことになるな。ところで、黒曜金貨五枚という報酬には惹かれないのか?」
ティールの収納能力のお陰で麻痺しがちではあるものの、黒曜金貨五枚がどれだけ大金なのか分からない訳ではない。
色々と金が必要な冒険者であっても、強い武器や頑丈な防具などを購入し、役立つマジックアイテムなどを購入しても、十分豪遊できるだけの金が残る。
それは年齢不相応に稼いでいるティールも解っていた。
「でもさ……やっぱり、レグレザイアと戦って勝たないと貰えないだろ」
「さすがにただで貰えるということはないだろう」
万が一の可能性はあるかもしれない。
ただ……もしあれよこれよと戦闘することなく、話術やその他の方法で手に入れれば、多数の同業者たちから恨まれ妬まれること間違いなし。
「……勝てるイメージが湧かないな」
ウリープルに到着してから、ティールは忘れず倒したモンスターからスキルを奪い続けており、僅かながらに成長している。
ラストも技術面でほんの少しずつではあるが向上している……のだが、それだけの成長幅で勝てると思うほど、二人は自惚れていない。
「他の連中は良く騒げるよな」
「まさに色々と夢を見ている状態、なのかもしれないな」
岩窟竜目当てにウリープルに訪れた猛者の中には、上手くいけば美人な貴族令嬢を嫁に貰えると勘違いしているアホもいる。
(何も勝てる保証解かない。なんなら、勝負となれば俺たちだって死ぬ可能性は十分にある)
仮に戦うことになれば何が何でも生き残る意思はある。
意思はあるが……正直なところ、自信はあまりない。
だが、それでもAランクモンスターに挑みたいという冒険心はあった。
「……今すぐ結論を出す必要はない。どうせあのドラゴンが殺られるとは思えないしな」
「うむ、それには深く同意だ」
保留を決めた二人は一先ず料理のおかわりを店員に頼んだ。
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