寝起きの拳骨

「っ……チッ!! 来そうだな」


「マスター、俺がやる」


「いいって。こういう時は俺も動く。だから二人そろって寝てるんだろ」


一枚目の結界が完全に破壊されたタイミングで、二人は眠りから目を覚ました。


(解ってはいたけど、鉱山に生息するモンスターとは、あまり相性が良くないな……まっ、寝る前と比べて体力は回復してるから文句はないんだけどさ)


通常のモンスターであれば、風属性が付与された結界など、触れようとすればどう考えても怪我をする様なものには……なるべく触れないようにする。


知能が低いモンスターはお構いなしに触れるが、基本的に手痛いダメージを食らい、逃げていく。

だが……ゴーレム系のあまり本人に意思や痛覚がないモンスターに関しては、そんなこと関係無く殺しに掛かる。


「ぅおらああああッ!!!」


寝る前より回復した。問題無いといえば問題無い……とはいえ、睡眠を邪魔された怒りは当然の様にあり、結界を全て割って入ってきたゴーレムやロックゴーレムに対し、ティールは一切手加減しなかった。


つまり……強化系のスキルを殆ど使い、拳に魔力を纏った状態で、全力パンチを叩きこんだ。

周囲のことなどお構いなしに拳骨を叩きこんだため、ゴーレムがそこら辺に吹き飛び……鉱山内が少々揺れた。


拳の加減は調整してないため、部分的に貫かれるか……拳骨の衝撃が全身に伝わり、魔石が砕けて機能停止。

とにかく拳一発一発で襲撃を仕掛けてきたゴーレムたちを破壊。


「マスター、少しの間警戒した方が良いと思うが」


「あぁ~~~……くそっ。そうだな、面倒だけど寝るのはもう少し後だな」


思いっきり拳骨を叩きこんで壁まで吹っ飛ばしたことで、その衝撃音が周囲に響き渡り……睡眠中のモンスターを起こしてしまった可能性はゼロではない。


そのため、二人は十五分ほど置き続けたが……結果、他のモンスターが二人に襲い掛かってくることはなかった。


「もう大丈夫そうだな」


再び結界を展開し、また結界が破られたら!! という心配が一切ないのか、ティールは速攻で夢の中へと旅立った。



「はぁ~~、やっと戻ってきた。今日はベッドの上で寝れる~」


翌朝、ウリープルへ戻ってきた二人。


ティールはやや気だるげな顔をしながらも、まずは冒険者ギルドへ向かった。


「買取、お願いします」


「か、かしこまりました。少々お待ちください」


睡眠時に襲い掛かってきたゴーレムの分もあるため、複数人で査定開始。


(ふん、今頃になってマスターの実力を認め始めたか)


周囲では鉱山に生息するモンスターの素材を大量に取り出したティールに関して話し合う冒険者たちが多数。


中には竜人族であるラストが戦闘は担当してるという、見当外れなことを口にする者もいたが、解る者たちは解っていた。

そして強者たちの中には、岩窟竜狩りに二人を誘おうかと考え始める者もいた。


だが、それは直ぐ別の強者たちによって止められる。

先に岩窟竜を狩られるのを防ぐために、ではない。


「あいつら、岩窟竜の元に行っても戦わなかったらしいぞ」


「はっ!? どういうことだよそれ」


事情を軽く知っている者たちが誘わない方が良い理由を伝え、知らなかった強者たちもその理由に概ね納得。


(…………勝手に言いやがって。聞こえないとでも思ってるのか)


人族より聴覚が優れているラストは、集中すれば一つの会話を聞き取るぐらいは出来る。


いくつか「ふざけんなよてめぇら!!!!」と怒鳴り込みたい会話はあるが、主人の許可なく咬みつくわけにはいかない。


「お待たせしました」


「どうも」


大金を受け取り、夜までどう過ごそうか考えるティールに、ラストは……不満を零すことなく、冷静に主人が過去に伝えてくれた言葉を思い出す。


(……落ち着け。本当に勝てると思ってるんだよな、あいつら…………うん、ある意味可愛いか)


自己完結したラストは、ティールと一緒に昼飯を食う店を探し始めた。

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