夢中に注意

(う~~~ん……凄い見ごたえがある戦い。それは間違いないんだけど、見る人によっては痛いと思うかもな)


愛剣である牙竜を使わず、ロックゴーレムと殴り合いを始めたラスト。


ロックゴーレムの拳骨がくれば、がっちり腕でガード。

そして今度はラストが拳骨で殴り返す。


「ふんっ!!」


「いっ!?」


また、再度ロックゴーレムが拳を振り落とした際、ラストは己の頭部……頭突きで対抗。


(いやぁ~~、今のはさすがに痛くないか? 絶対に痛いだろ)


主人が心配する中、岩の拳に頭突きで対抗というアホな行動を取った竜人は……ほんの少しばかり後悔していた。


(ふむ、さすがに頭部で受け止めるのは良くないな)


一応は反省しながらも、攻撃をガードしては一発返し、再度攻撃が飛んできたら躱すのではなくガード。

そしてお返しとばかり一撃を叩きこむ。


そんなやり取りが何度も何度も繰り返される。


(魔力も纏わずよくやるな~)


己の五体だけで戦う。

その考えには、魔力の使用は含まれていなかった。


ラストが使用した強化手段は身体強化のスキルのみ。

魔力を体に纏うことはなく、他の強化系スキルは使わない。

竜化などもってのほか、絶対に使わないと決めていた。


無茶な縛りで戦い続けるラストだが……戦況は確実にラスト有利ではあった。


他のモンスターと同じくスタミナは人より多いロックゴーレムだが、ラストの一撃を受けて無傷では済まない。

さすがにロックゴーレムが確実にガード出来るタイミングで攻撃を放つほど、お人好しではない。


「はっ!!!!!」


「ッ…………」


何度も攻撃を行う内に魔石の場所を把握。


ロックゴーレムとの戦闘に満足し始め、集中的に一部を狙い、ぶん取る。

スタミナ無尽蔵であるロックゴーレムであっても、命の源を取られてしまえば、機能停止は免れない。


「お疲れ様。ほら、飲んどけ」


「……いや、これぐらいは自然回復で十分だ」


「いいから飲んどけって。リーダーの優しさは受け取っておけ」


ちゃんと二本の脚で立っており、ふらついてもいない。

拳などに少々痣が見えるが、痛々しい内出血は見られない。


だが、ティールはラストが見た目以上に疲労していることに気付いていた。


「……分った。ありがたく受け取っておこう」


「おう。そうしろそうしろ」


自然回復出来なくはないが、それでも今Bランクのモンスターなどに遭遇すれば……負けずとも、少々焦ることになる。


それはティール本人も解っていたため、貰ったポーションを一気に飲み干した。


「んじゃ、次行くぞ」


「あぁ」


目標はロックリザード。

ロックゴーレムの死体をささっと回収し、目標を探す。


「……マスター、こっちが怪しい」


「おっけー」


先日レグレザイアというマジの本物であるドラゴンと出会い、その際にドラゴンの匂いを把握。


それと似ている匂いを探り、微かに残る匂いを辿る。


(この感じ……セットで動いている、か?)


獣人族程の嗅覚はないが、竜人族の勘が違和感を告げる。


「マスター……もしかしたら、ロックリザードがセットで行動しているかもしれない」


「へぇ~、それはなんというか……珍しいのかもな」


実力が実力なだけあって、倒せるか否か……もしかしたら自分が死ぬかもしれないという心配はない。


「二体とも俺が相手するから」


「了解」


その後、ラストの勘通り、本当に二体セットで行動しているロックリザードを発見。


先程のラストとロックゴーレムのバトルを観て闘争心が燃え上がっていたこともあり、若干ロックリザードが可哀想と思える程戦闘時間が長引いた。


(これは……虐めになるのか?)


ロックリザード二体は最後まで敵を殺すつもりで襲い掛かっていたため、決して虐めではない。


「よし、帰るか!!!」


元気良く帰還宣言をしたティールだったが、懐中時計で時間を確認すると……既にウリープルの門が締まる時間に、今からダッシュしてもおそらく間に合わない。


諦めたティールは渋々と言った表情で野営の準備を始めた。

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