結局は見えない首輪が……

「さて、どんな依頼を受けようか……」


岩窟竜と食事を楽しんだ翌日、朝から元気に冒険者ギルドに出勤。


クエストボードの前でどんな依頼を受けるか悩むティール。

そんな一人の冒険者に……複数の視線が向けられていた。


今までの様な実力を正確に把握できない愚かなルーキー……たちではない。

現在ティールに鋭い視線を向けているのは、ベテラン以上の実力だけはある愚物ではなく、ある程度の人格者としている強者たち。


(……先日、マスターに絡んだ者たちもいるな。この視線……喧嘩を売っている、訳ではないか)


ティールがどんな依頼を受けるかだけに集中している中、ラストは主人に向けられている連中に意識を向けていた。


(Bランク……Aランクの域に近い者もいるか? 多くはこちらを探るような視線か。不愉快だが……戦る気でないのなら、そこまで警戒する必要はないか)


「これにするか」


手に取った依頼は、ロックリザードの素材回収依頼。

鱗、骨、牙、爪。それらの素材が一定量。


ランクはCランクと、通常種のリザードと変わらない。

だが、属性が含まれた攻撃を行う分、厄介さが増している。


「お願いします」


「畏まりました」


二人の外見だけで判断するのであれば、依頼を受理しようと思う受付嬢はいない。


しかし、二人のランクがCというのは職員であれば周知の事実。

見た目だけで色々と判断して不快感を与えれば、多大な損実が出るかもしれない……と、上司たちから念を押されている。



「マスター、視線には気付いていたか?」


「あれだろ、結構強い人達からの視線だろ」


どんな依頼を選ぶかに集中していたティールだが、これまでと同じく多くの視線が自分に向けられていることには気づいていた。


「どうする?」


「どうするも何も、無視で良いだろ」


「分かった……しかし、中にはマスターを品定めするような視線を向けている連中もいたぞ」


忠実な奴隷であるラストとしては見過ごせない類の視線。


「品定め、か。もしかしたら、滞在中に勧誘されるかもな」


自惚れが過ぎる……とは言えない。


Bランクモンスターであれば、単独で倒せるだけの実力を有している。

一流には及ばないが、錬金術をも習得している。

加えて、仲間には同レベルの潜在能力を持つ竜人族の青年が付いている。


同業者や有名どころのクラン、自身の食客として欲する貴族がいてもおかしくない。


「まっ、誘われても断るけどな」


「ふふ……マスターらしいな」


「どこかに所属したら、自由に動けないだろ」


「自由に動いても良い、という待遇でもか?」


「そういう待遇でも、結局は見えない首輪に繋がれた状態だ」


あれこれ話しながら走っている、あっという間に鉱山へ到着。


岩窟竜の住処へ続く入り口とは別の場所なので、面倒な実力者たちと遭遇することは……おそらくない。


「……なぁ、この鉱山って、元々良い鉱石が良く採れるのか?」


「そういった情報は聞かなかったが……岩窟竜が住み着いている影響かもしれないな」


強大な力を持つモンスターは、良くも悪くもその土地に影響を与える。


(あちらこちらか、微かに属性魔力を感じる。冒険者や騎士を引き攣れる貴族の令息とかが毎日の様に挑んでるけど、領主からすれば居付いて欲しい筈だよな……まっ、どうなろうと知った事じゃないけど)


依頼を受けず、鉱石の採掘に訪れるのもありだと考えていると、岩と岩がこすり合う音が二人の耳に入る。


「リザードの前に、ゴーレムが相手か」


二人の前に現れた巨人は、ロックゴーレム。

ロックリザードと同じくCランクの強敵。


「マスター、俺が相手をしても良いか」


「あぁ、勿論良いぞ」


主人の許可を取って一歩前に出たラストは……牙竜を抜剣せず、拳を構えた。


(これぐらいの相手……己の五体で十分)


傲慢にも思える考えを改めることなく、そのままロックゴーレムとの殴り合いに身を投じた。

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