見間違いではない
「ティールさん、ティールさんにこちらのお手紙を預かってます」
「? ありがとうございます」
ギルドに件のオーガ、エンソルオーガの討伐を報告した翌日、二人はいつも通り適当に依頼意を受け、それなりに戦闘欲を満たして街に戻ってきた。
すると、ギルド嬢から自分たち宛に一つの手紙を渡された。
「……宿に戻ってから読んだ方が良さそうだな」
差出人のところに書かれていた名は……ラクト・フラウス。
先日いきなりギルドマスターの仕事部屋に入ってきた女性騎士、アミラ・フラウスの父親。
つまり、デブリフーリルという街を治める領主である。
(何なんだろうな……正直、面倒だから直接会ったりとかは避けたいんだが)
宿に戻って恐る恐る封筒を開け、手紙を取り出す。
「えっと………………………………へぇ~~、意外と太っ腹だな」
手紙に記されていた内容は主に二つ。
一つはフラウス家に仕える騎士の救出、加えて件のオーガを討伐して攫われた女性たちの解放に関する感謝。
それに関連して、娘が無茶をせずに済んだことに対する感謝内容が記されていた。
二つ目は、それらの感謝に対する気持ちとして、デブリフーリル一の高級料理店で、一会食分だけ食い放題してもらって構わないという内容。
「ラスト、美味い飯が食い放題みたいだが、今から行くか?」
「ほぅ、それは良い提案だな」
まだ夕食を食べていない二人は、宿の従業員に料理店の場所を尋ね、手紙に記されていた高級料理店へ直行。
「ティール様とラスト様ですね。少々お待ちください」
既に二人が一会食だけ食べ放題であることは知らされているため、案内はスムーズに行われ、二人は個室へ案内された。
「これとこれと……それにこれえを」
「ここから縦に四つ。そしてここから縦に三つ頼む」
「……かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
アホみたいな注文の仕方をする二人だが、店員は慌てることなく注文されたメニューを暗記し、厨房へと向かう。
「マスター、本当に食べ放題……いくらでも食べて良いんだよな」
「あぁ、そうだと思うぞ。手紙にはそう書かれていた事情を考えれば、俺は娘の命を助けた恩人になっていたかもしれない。そんな人物を騙す程、屑ではないだろ」
「娘があれであれば、心配する親はまともそうだな」
事前に高級料理店の料理を食べ放題だと知らされていなかったため、思いっきり腹は空かせていない。
しかし、それなりに運動してきたため、食べようと思えばそれなりの量を食べられる。
それはティールにも同じことが言えるため……高級料理店の料理は一皿一皿の量があまり多くない事もあり、二人は次から次にメニューを頼んでいく。
最初は平然とした態度で二人の注文を確認し、厨房に伝えに行く従業員も……次第に二人の食いっぷりに恐ろしさを感じてくる。
二人の所作が冒険者とは思えないほどまともなこともあり、ある意味恐ろしさが加速。
「ふぅ~~~~~。いや~、ちょっと食い過ぎたかもな」
「うむ……宿に戻れば、直ぐに寝てしまいそうな満腹感だ」
「その前に風呂に入るけどな」
「であれば、余計に深く沈みそうだ」
もし……もし従業員が皿を下げていなければ、二人が食事をしていたテーブルには、漫画の中でしか見られない量の皿が積み重ねられていた。
当然、それだけの量を食べても……二人が金を払うことはなく、請求先はフラウス家へ。
その請求額を見たラクト・フラウスは、二人のあまりにも遠慮ない食いっぷりに、絶対に一桁見間違っていると何度も確認した。
六回ほど確認したが、現実など悟り……執事から二人のお陰で娘であるアミラが傷物にならずに済んだのだと耳打ちされ、失神せずに済んだ。
こうして領主から二人に対して恩は返した……返せたが、二人の功績は傍から見れば、それだけで収まるかは……少し微妙なところ。
二人はそういった事情で領主をゆすろうなどとは考えていないが、領主が自分たちに対する恩という点を考えた結果、デブリフーリルは今のところかなり住みやすい街だと判断。
ティールとラストは次の目的地が見つかるまで、デブリフーリルで休暇も兼ねて長期間滞在することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます