常識はあった
「失礼する」
執務室に現れた人物は……先日までエンソルオーガの討伐を確実に成功させるために動いていた女性騎士、アミラ・フラウス。
(……はっ? なんで?)
いきなり執務室に現れた領主の娘であり、騎士でもある女性、アミラ・フラウスに……執務室の主であるギルドマスターも驚きの表情を隠せないでいた。
ティールとラストが特殊なオーガの討伐を終えて戻ってきたという話は、既にデブリフーリル中に広まりつつある。
となれば、アミラ・フラウスの耳に入るのも時間の問題ではあった。
(なんか、物凄い不機嫌、だよな)
ティールだけではなく、ラストやギルドマスター、他のギルドの上役たちから見ても、アミラ・フラウスが不機嫌であるのは一目瞭然。
「お前たち二人が、ティールとラストか」
「あ、はい。そうです、が……」
隠せる状況ではないため、素直にアミラからの問い対し、正直に答えるしかない。
(ことと次第によっては……殴り飛ばす)
執務室の中で、唯一ラストだけが不機嫌なアミラに対し、一歩後ろに下がらずいつも通りの様子で警戒心をむき出し。
一歩下がっているティールも、ことと次第によってはこの場でバトルが抜発するかもしれないと思い、一応は身構える。
「…………仲間を助けてくれたことに、礼を言う」
「えっ……ど、どうも」
少々長い沈黙の後、アミラ・フラウスの口から零れた言葉の内容は、感謝の言葉だった。
予想外の内容に、ティールは面食らった表情を浮かべ、気の抜けた返事を返してしまう。
(もしかして、あの表情で不機嫌じゃないのか?)
ティールの考えに反し、不機嫌であることに間違いはなかった。
アミラ・フラウスとしては自身の力を中心として戦力を立て直し、エンソルオーガにリベンジマッチ。
そして攫われた同じ女性騎士の同僚、同じく攫われた女性たちの救出を行う予定だった。
それを横から冒険者二人に掻っ攫われた。
決してティールとラストは間違ったことをした訳ではなく、ルール違反を犯したわけではない。
同族や同族以外のモンスターを従える特殊な存在など、一日でも一時間でも一秒でも早く消滅させたい脅威。
ただ……アミラ・フラウスにとっては、因縁が生まれた相手。
できることなら、自分が倒したいと思うのも無理はない。
そんなエンソルオーガに因縁を持ってしまったアミラだが、自身の同僚を……仲間を救ってくれた者に対して、まずは礼を伝えなければならない。
常識は持ち合わせていたため、不機嫌さを隠し切れないながらも、二人に軽く頭を下げて礼を伝えることが出来た。
「それは伝えたかっただけだ。邪魔した」
付いてきていた仲間の騎士も予想外の対応であったため、慌ててアミラに付いていった。
「……絶対に、勝負を申し込まれると思った」
「失礼になりそうだが、俺も同じ気持ちだったぜ。まぁ、勝負したところで勝つのはお前さんだろうけど」
嵐が去り、ラスト以外全員がホッと一息ついた。
「というかラスト、あの騎士が俺に対してこう……暴言に近い何かを吐こうとしたら、ぶん殴るつもりだっただろ」
「当然だろ。仲間を助けてもらっておいて、助けた人物に対して暴言を吐くなど、屑にもほどがある」
因縁という部分に関しては多少理解があるため、追及はしない。
加えて、ラストの言葉にギルドマスターたちも理解はあった。
だが……暴言を暴言とも思わない連中が貴族にはいるため、権力がない者はそれに耐えなければならないこともある。
「おいおい、そういうのは思うだけにしてくれよ」
「……奴らの対応次第としか言えないな」
貴族に対して、完全に容赦がない。
そんなラストの反応に……ギルドマスターは二人は本当にBランクへ上げても良いのかと、ほんの少し迷いが生まれた。
Bランク以上の高ランク冒険者ともなれば、権力者たちからの依頼を受ける機会が増え、直接対面する機会もある。
「騎士という職を持つのであれば、恩人に対してそれ相応の態度を示す者だろ」
「っ……まっ、そりゃそうだな」
なにはともあれ、ティールという手綱を握れる人物がいるのであれば、そこまで心配する必要はない。
そう信じ、二人のBランク推薦の準備を始めた。
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