村や街どころではない

十人ほど攫われた女性たちがいたため、数日で戻ることは出来ず、合計で十数日かけてデブリフーリルに戻ってきたティールとラスト。


特殊なオーガに攫われたという女性たちが戻ってきたという話は、その日の内にデブリフーリル中に広まり、数日後には被害にあった女性が滞在していた街にまで広まった。


そして……当然と言えば当然であり、ティールとラストもそうなると予想していた通り、ギルドの上役と再びご対面することになる。


「噂のオーガの死体も見せてもらったし、お前らが噂のオーガ……エンソルオーガだったか。そいつを倒したってのを確認させてもらった。とりあえず受け取ってくれ」


「どうも」


ティールはギルドマスターから渡された袋の中身を見ることなく、亜空間に放り込んだ。


「お疲れのところ悪いとは思うが、少しお話しても良いか」


「えぇ、勿論です。というより、話しておかなければならないことだと思っていました」


ティールは自分が受けたエンソルオーガの印象を、事細かくギルドマスターたちに伝えた。


オーガらしい身体能力を持ちながらも、高い魔力の腕と知能を持ち……同時に、非常に人間らしい感情を持っていたこと。


「……そんな個体がいるのか」


「信じられないと思いますが、あれは魂はモンスターではなく、間違いなく人でした。生まれた時からそういう魂なのか、それとも死んだ人間の魂がオーガに宿ったのかは解りませんが……とにかく、何度もゾッとさせられました」


「同族ではなく、他種族のモンスターをも従えて、戦闘技術を指導出来る……俺も考えただけで震えるな。しかし、女と犯るためじゃなくて……あれか、恋愛するために誘拐した、んだよな?」


「俺も詳しいことは解りませんが、現時点ではそれだけに留まってましたね」


「ということは、だ。エンソルオーガの前世? では、女に興味はあれど、全く縁がなかった。だから女とそういう関係になることに執着してたってことか」


ギルドマスターの言葉に、ティールは苦笑いしながら頷く。


正直、ティールもエンソルオーガに対して全てを理解していないため、断定は出来ない。


「…………無茶苦茶人間臭いな」


「無茶苦茶人間臭いと思います」


「いや、考えれば考えるほど危険な存在だってのは解る。解るんだが……いくら未練があったとはいえ、モンスターになってまで恋愛したいと思うか?」


その問いに、十秒ほどじっくり深く考える。


全く的外れな暴言を言われ、一瞬で怒りが限界突破したが、完全に理解不能な感情とは思えなかった。


「エンソルオーガの魂に関して詳しくありませんが、おそらく恋愛をするにも絶望的な容姿だったんじゃないですか?」


「ふむ……魔法の腕はそこそこある。だが、女が媚びてくるほどの腕はなかったってことか」


「悲しい言い方かもしれないですけど、そういうことになるかと」


「恐ろしい執念もあったもんだ……うん、本当に解決出来ない日々が続いたらと思うと、恐ろしいぜ」


モンスターが次のステップに進化するタイミングは、壁を乗り越えた時や環境が変化した際に訪れる。


加えて、人間の女性がオーガに犯された場合、生まれてくる子は基本的にオーガとなる。

エンソルオーガのような特殊なオーガから生まれた子が、その特殊性を引き継ぐ可能性は高い。


訓練されて進化した人型のモンスターに、優秀な種を受け継いだ危険極まりない将来ある意味有望なオーガ。


村や街どころではなく、十分国が滅ぼされる可能性があった。


「まっ、それでも期待のスーパールーキーたちの相手にはならなかったって訳だな」


「いや、えっと……とりあえず無事に倒すことは出来ました」


「うしっ! それなら、Bランクへの昇格を早められるな」


「っ!!??」


予想していなかった言葉が飛び出し、表情が固まるティール。


「失礼する」


感情が追い付かないティールを無視し、更なる問題が執務室に入ってきた。

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