矛盾が重なった一撃
(こいつ……底無しか!?)
アドバースコングとの戦闘が始まってから数分……周辺の地面には、いくつものクレーターが生まれ、木々は何本も折れている。
「ウホッ!!!」
「っ!? おらっ!!!!」
ティールは無傷、アドバースコングは幾つもの傷を負っており、ぱっと見だけではティールが優勢と思える戦況。
アドバースコングは一般的なモンスターと比べて高い回復力は持っているが、再生力はない。
その筋肉に見合う防御力は有しているが、同ランクのゴーレムなどと比べればやや低い。
なので、今回の戦闘中に負った傷が、直ぐに癒えることはない。
血もそれなりに流している為、当初よりも動きのキレはやや落ちている。
だが……アドバースコングは、十層のボスモンスターであるリベンジオークと似た力を持っている。
今回の戦闘は、楽しむものではない。
緊張感を乗り越え、高みへ目指す戦いではない。
少しでも早くランク上、リーダーである目の前のゴリラを仕留め、残っているモンスターの殲滅に行かなければならない。
そういった思いを持ちながら動いていたティール。
開始数十秒後には雲雷を使用し、アドバースコングの動きを止めて首を狙った。
だが、いつも数秒程度は動きを止める雲雷の痺れを、約一秒で弾き飛ばし、命が奪われかねない寸前のタイミングで回避に成功。
多少首部分の皮や肉は切れたが、気道が切断されることはなく、斬れた部分も筋肉の圧によって、致命傷には至らなかった。
そして次の瞬間……アドバースコングは拳に雷を纏い、ティールに向けて雷拳を振り下ろした。
勿論、拳の威力も多少強化された状態。
「ホァアアアッ!!!!」
「ちっ!!!」
強化されるのが、攻撃力のみ。
ティールはその点についてホッとしていた。
スピードまで上がられては、ぱっと見でも戦況が完全に逆転してしまう。
では、現時点の詳しい戦況はどうなのか。
ティールが押している様にも思えるが……精神的には、ティール側が押されていた。
今までも戦ってきた強敵たちは、全員がそのランクに相応しい攻撃力を有していた。
強敵の攻撃が、自分の防御力を上回っているのはいつものこと。
そう……いつものことだが、今回ばかりは事情が違う。
(本当に、どの攻撃も、頭おかしいだろ!!!)
最初から殺る気で挑んでも、速攻で決まることはない。
そう予想してはいたが……一向に折れる気配を感じない。
加えて、攻撃力も落ちない。
ティールのメイン攻撃は斬撃。
疾風瞬閃や豹雷を使った、属性魔力を利用して強化した鋭い斬撃なのだが……それを食らった直後に放つアドバースコングの一撃は、重鈍なハンマーの一撃と名刀を剣豪が放つ一振り……矛盾が重なり合った一撃を放つ。
周辺のクレーターには、凹む範囲が広いものと、範囲は狭いが、凹み具合が段違いなクレーターの二種類がある。
(ったく、スキルじゃないんだよな……スキルなら、倒した後に欲しいと思ったけど)
ティールの防御力を考慮すれば、そう何度も使用できるものではない。
だが……そんな特性、スキルをゲット出来れば、大きな切り札となる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「…………」
モンスターパーティーとの衝突が始まってから、必死で動き続けてきた。
珍しくはあるが、当然と言えば当然な状況……ティールのスタミナに、そこが見え始めた。
(迂闊に攻撃できないが、攻撃しないと一気に流れが悪い方向に向かう……こいつ、今までで一番苦手というか、戦り辛いというか!!)
流れを悪くしたくない。
だが、攻撃すれば次のアドバースコングの打撃に鋭さが加わり、より破壊力が増す。
何度か頭の中でその打撃を食らった瞬間をイメージした。
結果……骨を超えて内臓が弾け飛ぶ、そんなイメージしか浮かばない。
自身の現状を考え、そうなってからでは遅いと判断し……抑えることを止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます