その繰り返しが……

主人とモンスターパーティーのトップに君臨するモンスターの戦いぶりを、ほんの少しではあるが確認した。


主人は相変わらず見た目に似合わない強さを十全に発揮している。

それに対し、トップのモンスターであるゴリラのパワーには、ラストも驚嘆させられた。


(俺が竜化を使っても、あそこまでの一撃を繰り出せるか、怪しいところだな)


パワーであればそう簡単に負けない。

そう思っていたラストだが、アドバースコングの渾身の一撃を軽くイメージしたところ……今のところは勝てる気がしなかった。


(この戦いで、俺も成長しなければな)


乱戦が極まった状態での戦闘にはもう慣れた。


どの様に魔力を……牙竜を扱えば、より効率的にモンスターたちを狩れるか、身に染みてきた。


(あのルーキーの相方も、とんでもねぇな!!!)


(あっちも若いのに、本当によく戦うな!!!!)


(スーパールーキーの仲間の竜人族君に、援護は必要なさそうね)


本人の知らないところで、ベテランたちからも好評を受けるラスト。


実際のところ、本当に後衛職たちからの援護がないほど余裕……ではない。

超乱戦状態に体が、戦いに関する思考が慣れてきたが、当然ラストに限界はある。


紙一重でモンスターの攻撃を避けることも少なくない。


それでも……今のラストからは、一人でもなんとかしてしまう強さと空気があった。


(良いぞ、なんだか今は、いつもより集中出来ている、気がするな)


俗に言う、ゾーンに入った状態。

どこぞの高校生のように、自力で入った訳ではなく、決して弱くはなく……楽勝でもない多数の相手に囲まれ、その状況が絶えず続くからこそ、偶々入ることが出来た。


極端に敵の攻撃がスローモーションに見えるようなことはなく、自分の影が目の前で動き、その後に続いて自分も動けば自然と敵を倒せる……なんて超常現象も起きていない。

当然、瞳から光が零れることもない。


ただ……非常に感覚が鋭くなっていた。

いつも以上に敵の動きが、姿が良く見える。

良く見えるからこそ、次の動きが予測できる。


そして聴覚に関しても、いつも以上に音が良く聞こえる。

死角から放たれる攻撃によって、空気が僅かに揺れる……その揺れの音から、いったいどんな攻撃が飛んでくるのか把握し、対応。


考えて判断する速度も、普段と比べて格段に上がっていた。

接近戦で戦う戦闘者にとっては、まるで無敵……無双状態とも思える感覚だが、ラストは自身の状況に……動きに酔いしれてはいなかった。


ただ躱し、潜り込み、斬り裂き、受け流し、また斬り裂く。

同じ様な流れを何度も何度も繰り返す。


「ったくよ、最近のルーキーは、どうなってんだよ!!!」


「頼もしいのは、なによりだが!!!! 頼ってばかり、いられねぇな!!!」


「その通りだな!!!!」


ラストと同じく前衛で戦う冒険者たちは、ラストの活躍ぶりに感化され、未だ闘争心が衰えることがなく、更に加熱。


とはいえ、いきなり無茶をすることはない。

逆に冷静になり、一手一手最善の動きを模索し始める。


(今だ!!!)


長く冒険者人生を続け、温くない修羅場を潜り抜けてきた者であれば、ラストが現在体感している無敵感覚を得たことがある。


とはいえ、それでもどこぞの高校生みたいに、自力でその感覚に足を踏み入れることは出来ない。

ただ……一部だけの感覚であれば、冷静さを失わず、研ぎ澄ませていけば得るのは不可能ではない。


(まだまだ動けるだろ! こっからだろ、俺!!!!)


ルーキーが予想以上の働きを見せ、その働きにベテランが焚きつけられ、更に他のルーキーがベテランの闘争心を更に熱くさせる。


その結果……モンスターパーティーが始まってから約ニ十分、全員の予想よりも冒険者側が完全に優勢な戦況となっていた。

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