珍しくイライラ
「ま、待ちなさい!!!!」
「……はぁ~~~~~。待ったところで、何も解決しないと思うんですけど」
一度上げた腰をとりあえず下ろしたが、ティールとしてはそろそろラストが待っている冒険者ギルドに戻りたい。
「せめてディリスさんがラストに告白して、相思相愛になれば俺も考えますけど、現状では解放する気は全くありませんよ。あっ、言い訳したいならまずはきっちりと白金貨五枚を用意してからにしてくださいね」
「ッ!!!!!!」
現状では解放する気は全くありませんよ。
この言葉を聞いた瞬間にディリスは大声で声を荒げそうになったが、続く言葉に押されて何も言い返せなかった。
「というか、少しは俺の立場になって考えてみたらどうですか。苦労してお金を手に入れて、そのお金で買った奴隷を無条件で解放しろと言ってくる……この状況をじっくり考えれば、自分がどれだけ理不尽なことを言ってるのか、分かると思いますよ」
「それは……でも」
何度正論をぶつけても中々バキッと折れないディリスに対し、ティールは心の中で深々とため息を吐いた。
(はぁ~~~~~~~~~~~……そろそろ本気でウザいな、この人)
ティールが何度も正しい内容を説いても、納得して引いてくれない、納得してくれない。
この現状にラストの主人はかなりイラついていた。
(絶対に白金貨五枚揃えてやるわよ!!!! とか言うなら根性あるな~~~とか思うけど、正論ぶつけられて納得して引かないどころかウジウジして引かないとか……今回の内容を全部ラストに伝えてやろうか)
仮に白金貨五枚を揃えると宣言したのであれば、根性をあるのだと思うが……結果的に白金貨五枚を用意しても開放するつもりはない。
そして今回の件で話し合った内容がラストの耳に伝われば、ラストは今後永遠とディリスに絶対零度の眼を向けることになる。
もしくはわざと視界に映さないという可能性すらあるだろう。
「なぁ、女だからってそうやって悲劇のヒロインぶってればなんでも思う通りに事が進むと思ってるのか。もしそう思ってるなら冒険者なんて辞めたらどうだ」
ディリスにそんなつもりがないというのは分かっているが、それでもイライラが限界を超えたティールの口から珍しく刺々しい言葉が漏れた。
そんな刺々しい言葉にディリスが何かを言う前に席を立ち、店員に自分が食べた分の料理代だけを払って店を出た。
(あいつ……頭おかしいんじゃないか?)
ティールは真面目にディリスのことをぶっ飛ばしてやりたいと思った。
確かに他の冒険者と比べて実力が高いので一か月の給料は、完全に同じルーキーより上回っている。
だが、大金を手に入れる切っ掛けとなった戦い……ブラッディ―タイガーとの戦いはまさに命懸けの死闘だった。
ギリギリの場面で雲雷を使い、見事修羅場を乗り越えることに成功したが、何度も死の危機を感じた戦い。
(あそこでディリスさんを殴らなかった俺はかなり偉いと思うんだが……いや、そもそも男が軽々しく女に手を出しては駄目か?)
男が女に手を出してはならない。
その考えは男らしいかもしれないが、見方によってはディリスが無条件でラストを奴隷から解放しろと、喧嘩を売っているようにも見えなく……ない? かもしれない。
(あそこで解放する条件として、それなりの金を用意してたんなら認識が少し変わってたんだけど…………あれはちょっとないな)
ティールの中でディリスは口だけ自分の考え押し付け女という認識が根付いてしまった。
(まぁ、別にこれからディリスさんと関わることなんて殆どないだろうから良いんだけどさ……もし、またさっきの件で絡んできたら、その時は殴っても良いかな)
珍しくイライラしながら冒険者ギルドに戻ると、そこには昼間から酒を呑んでいた冒険者と意外にも上機嫌に話しているラストがいた。
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