対価を払えるのか?
「そもそもな話だけど、ディリスさんがなにも俺に支払わずにラストを奴隷という立場から解放しようなんて、ちょっと虫が良過ぎるだろ」
ティールは偶々運良くラストという奴隷を手に入れた訳ではない。
「解放したいなら、それ相応の対価を払うのが普通だと思うんだけど」
いったいどんな複雑な内容なのか分からないが、周囲で聞き耳を立てている客達はティールの言葉に共感した。
「ちなみに、ラストの値段は白金貨四枚だ」
「「「「「ッ!!!???」」」」」
ラストが売られていた値段を聞き、ディリスを含めた他の客達も同じく驚きで言葉が出なくなった。
しかしそれも仕方なく、一般人からすれば白金貨を使う機会がない。
ましてや、見る機会すらない場合もある。
一般人よりも危険だが大金を稼ぐことが出来る冒険者のディリスであっても、まだDランクということもあってそんな大金を一度に稼いだことはない。
「俺が武器を貸したとはいえ、Bランクのリザードマンジェネラルを一人で倒す力を持ってるんだ。それぐらいは珍しくないだろ」
ディリスは直接その眼で観ていたので驚かないが、周囲の客達はもう一度驚かされた。
そしてラストの白金貨四枚という値段にも納得。
(あ、あの姉ちゃん……よく無茶要求が出来るな)
一般人にはあまり詳しい冒険者事情は分からないが、Bランクのモンスターを売れば大金になることぐらいは知っている。
そんな稼ぎ頭を開放しろ、なんて言われたら普通は怒る。
周囲の客は無茶な要求を頼まれても全く怒らず、淡々と言葉を返すティールが単純に凄いと思えた。
「それと、ラストは俺と出会った時はまだ声が出せない状態だった。だから教会に行って金を払い、その傷を癒して貰った。その時の代金が白金貨一枚だ」
ティールの説明を聞いた者たちは驚き過ぎて、開いた口が塞がらない状態となっていた。
何も言い返せないディリスの反撃を待つことなく、ティールは淡々と自分の考えを述べる。
「俺がラストを手に入れるまで使った金額は白金貨五枚。装備品とか追加すればもうちょいするが、とりあえず白金貨五枚だ。本当は解放するという条件受け入れるにしても俺にメリットがないから、そこに上乗せするのが当たり前なんだが……なにはともあれ、最低条件としてラストを奴隷という立場から解放するには、白金貨五枚がいるんだよ」
奴隷という立場からラストを開放したとして、ラストが必ずティールの元を離れるとは限らない。
ただ……万が一、事情があってラストにパーティーを抜けたいという思いが生まれるかもしれない。
そうなった時、奴隷という立場から解放していればラストを自分の隣に置いておく効力が一ミリも無くなってしまう。
(まぁ、ディリスさんたちからすればラストという実力派のイケメンが俺みたいなよく分からないけど生意気にも強いガキと一緒に居るのが、たまらなく嫌なんだろうな)
ティールにとって、誠に鬱陶しい感情。
だが、そう思われているとしても……ラストを放すつもりはさらさらない。
「ラストを奴隷という立場から解放したいなら、それぐらい用意するのが筋ってものだろ……なぁ、ディリスさん。俺は何も間違ったことを言ってないと思うんだが」
「…………」
完璧なド正論をぶつけられ、何も言えないディリス。
周囲の客達はディリスに同情……することはなく、寧ろ白金貨一枚を教会に渡し、奴隷の傷を癒してもらったティールに賞賛の声を心の中から送っていた。
声が話せなければ不自由だの何だの理由はあっても、仲間の為に白金貨一枚支払う。
なんて太っ腹な少年なのか……と、思う者たちが客の中には多数いた。
(まぁ、一般的なDランクの冒険者が白金貨五枚を集めるなんて、直ぐには出来ない。それほどの貯蓄があるとも思えない)
もう話すことはないと思い、皿に残っているサンドイッチを胃袋に入れ、冒険者ギルドに戻ろうと準備する。
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