気にせず吞んでくれ

「それでは、全員の無事と英雄の勝利を祝って、乾杯!!!!」


「「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」」


イグラスが音頭を取り、コボルトとオークの巣を潰し……ついでにリザードマンの群れを無事討伐した宴が始まる。


街に戻るまでティールの言葉にイラついていたDランクの冒険者達も、折角の先輩が奢ってくれる宴ということもあり、テンションを上げて楽しむ。


(……サラッと英雄とか言わないでほしいな)


イグラスたちにとっては、ティールとラストの二人がいなければ今回の討伐戦から生き延びるのは不可能だったと確信しており、特にリザードマンジェネラルとスカーレットリザードマンを倒した二人はまさに英雄。


感謝してもしきれない恩を感じていた。


ただ、自身を英雄と呼ばれることに関して、やや恥ずかしさを感じているティールはもじもじしながら飲み物を喉に通した。


「エールを飲まないのか、ティール!!!!」


「いや、俺はまだ子供なんで……果実水で十分ですよ」


酒を早い年齢から呑んでいる体に悪影響……なんてことは全く知らないが、特に飲んで酔って騒ぎたいという気分ではなく、純粋に食事と話し合いを楽しみたい。


「なんだよ、折角だから呑めば良いのに……ラストも呑まねぇのかよ」


「マスターが呑んでいないのに、俺が呑むわけにはいかないだろ」


現在、ティールたちはイグラスたちが気を利かせて、Cランク冒険者たちが座る席で食事を取っている。


(ラスト、お前それを言ったら……)


流れ的に自分が酒を呑まなければ、ラストが呑めないという状況。

決してラストにはティールを追い詰めようという気はない。


ただ、奴隷という立場的に主が呑んでいないのに自分は酒を呑む。

そして仮に飲み過ぎで酔っ払い、主に迷惑を掛けてしまってはならない。


「……ラスト、あれだ。今日は無礼講てきな感じだ。俺が呑んでいないからといって、気にする必要はない」


「……………………分かった。マスターがそう言うなら、少しだけ呑ませてもらおう」


十秒ほどじっくり考えてから、ラストは店員にエールを一杯頼んで飲み始めた。


「にしても、今日は二人がいてくれて本当に助かったぜ」


「その通りだな。ティールとラストがいなければあの二体には……いや、二体がおらずともあのリザードマンの群れと戦えば何人死んでいたか分からん」


「というか、あいつらがもし街を潰そうなんて考えてたら、本当に危なかったわ」


Cランクの先輩冒険者たちから視て、リザードマンジェネラルかスカーレットリザードマン……どちらかを倒すだけでも命懸けの戦いになる。


ヤドラスに滞在している主力の冒険者たちで挑めば倒せるが、それでも楽に倒せる敵ではない。


「……俺は、武器に救われただけだ。マスターが貸してくれた斬馬刀が無ければ、リザードマンジェネラルを倒せなかっただろう」


「謙虚な奴だな~~。でも、確かにあの斬馬刀って武器……ただのデカい剣って訳じゃなさそうだったな」


「そういうことだ。斬馬刀が無ければ……倒せたとしても、もっと時間が掛かっていた筈だ」


斬馬刀の重さを操作する能力。

あれによって馬鹿に出来ない速さと力を生み出すことに成功し、リザードマンジェネラルの体をぶった斬ることができた。


「俺は……今回に関しては、ちょっと武器の能力を過信し過ぎてた部分があったな」


「そういえば、ティールは自分の分身を生み出していたよね。あれは魔法やスキルじゃなく、武器の能力だったんだね」


「自身の魔力を消費して、雷の分身を生み出すんですよ。あのままスカーレットリザードマンが俺の分身を斬っていたら、雷にやられて大きな隙が生まれてたはずだったんですけど……野生の勘が告げたのか、上手く対処されました」


ただ身代わりをつくるだけではなく、敵が分身に触れると雷を流して動きを数秒ではあるが封じる。


能力の効果を聞いた先輩冒険者たちは、その能力にティールが過信してしまう気持ちが解らなくもなかった。

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