無駄な選択肢を増やさない為に
ティールがスカーレットリザードマンとの戦闘に苦戦している頃、ラストとリザードマンジェネラルは両者とも命を懸けた戦いを楽しんでいた。
「ぜぇぇああああああああっ!!!!!!!」
「ギィィアアアアッ!!!!!!」
ラストが扱う武器は斬馬刀。
そしてリザードマンジェネラルが扱う武器は大剣。
両者とも重量級の武器を振り回すことで、刃がぶつかり合う度に大気を揺らす衝撃音が鳴り響く。
「ちっ! 分かってはいたが、本当に入り込む隙間がねぇな」
「悔しいけど、その通りね」
二人の戦いはただ力強いだけではなく、速い。
速さだけであればなんとか割り込めるかもしれないが、その一撃に命を懸ける可能性がある。
冒険者として、戦いの中で命を落とすことは当たり前。
そんなことはCランク冒険者である彼らは分かっている。
だが、それでも割に合わないという感情がある。
(仮にラストを援護するにしても、それはもっとリザードマンジェネラルの動きが落ちた後だ。じゃねぇと……ラストに余計な選択肢を増やしてしまうかもしれねぇ)
仮に速さに自信がある先輩冒険者が命を懸けて一撃を入れようとして、それがジェネラルに弾かれてしまう可能性がある。
そして……そのままジェネラルが攻撃の対象を入れ替えてしまう。
ジェネラルの性格を考えれば思考を変える可能性は低いが、それでも戦闘欲以外にも当然、生存欲はジェネラルの中にある。
では、ジェネラルが他の冒険者に攻撃対象を変えた場合、ラストはどのような選択肢を取るのか。
それはラストの戦いぶりを少しでも今回の戦闘で見た者であれば、直ぐに解る。
(多分、俺たちを庇おうとするだろうな)
現状、ラストとリザードマンジェネラルの戦力は五分五分。
ルーキーでありながらリザードマンジェネラルと張り合うラストの力と、激しい戦闘に耐える武器は色々とずば抜けている。
そう思う一方、やはり敵もBランクのモンスター。
簡単に倒れてはくれない強さを感じる。
(ふむ………こいつ、総合的にはあのヴァンパイアよりも、強いな)
先日戦ったとある一室から復活したヴァンパイア。
同じ人型のBランクのモンスターではあるが、ラスト的には現在戦闘中のリザードマンジェネラルの方が強敵だと感じた。
(そういえば、あのヴァンパイアはティーラスたちが目覚めさせてしまったと言っていたな……戦闘の勘や場数を考えれば、こちらの方が手強いと考えるのは必然か……だが、それでもソードブレイカーを使っている余裕はなさそうだな)
リザードマンジェネラルはある程度優れたステータスを持っているが、それでもパワータイプのモンスター。
一撃の重さはヴァンパイアと比べるまでもない。
攻撃の速さも並ではない為、受け止める為には斬馬刀の扱いに集中して、なおかつ両手を使わなければならない場面が多い。
(はっはっは!! どちらにせよ……戦い甲斐があるというものだ!!!!)
自分の全力を振り絞っても中々押し切れない相手に対し、絶望よりも歓喜が勝る。
それはリザードマンジェネラルも同じく、両者の戦いは互いの感情に呼応するかのように激しさを増す。
ゆえに衝撃が後方で待機している冒険者たちに及ぶこともあり、強制的に後ろに下がらなければならない。
(クソ……いや、今は嘆くよりも周囲を警戒しねぇと)
現状、ラストをサポートする為に戦いに参加することは不可能。
しかしリザードマンたちと同じように、漁夫の利を狙う者が現れぬとは限らない。
そんなモンスターたちからラストを守るために、先輩冒険者たちは警戒を怠らず、臨戦態勢を解かない。
そして更に二分経ち……強者との戦闘を好むラストもそろそろ決定打が欲しいと思い始めた。
(おそらくだが……総合的には、やや紅いリザードマンの方がうえ。マスターが負けるとは思わないが……そろそろこいつとの戦いを終わらせたいところだが……)
そろそろジェネラルを始末したい。
そう思ったタイミングで、ラストは斬馬刀の使っていない能力を思い出した。
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