手を貸せない悔しさ

「イグラスさん、あの後ろで立っている紅いリザードマンは俺がやります。イグラスさんたちは周囲の警戒をよろしくお願いします」


「ちょ、待つんだ!!!」


イグラスの制止を振り切り、ティールは今まで出していなかった殺気や敵意を全開。

先程のラストと同じく、完全にスカーレットリザードマンの注意を自分に引き付けようとしていた。


「ギィィィイイイイアアアアアアッ!!!!!」


好敵手が自ら自分の方向へと向かってきた。

それに胸が高鳴ったスカーレットリザードマンは一つ雄叫びを上げ、全力でティールへ斬り掛かった。


ティールとスカーレットリザードマンの戦闘が始まると、イグラスは直ぐにティールの言葉を理解した。


「なるほど……そういう、ことか」


リザードマンジェネラルとスカーレットリザードマンのヤバさはイグラスも感じ取っていた。

あの二体は自分たちが命懸けで倒す敵だと、そう認識していた。


だが、いざスカーレットリザードマンとティールの戦闘を光景を観ると、自分たちが下手に手を出したらティールの邪魔をしてしまうかもしれないと感じた。


(強いとは思っていた。しかしこれほど強敵との戦いに対応出来るとは……先輩として、情けないな)


ルーキーが……後輩が敵のボスと戦っている姿を、ただ見ている事しかできない。

その悔しさをイグラスだけではなく、他のCランク冒険者たちも味わっていた。


これがまだ敵が大型のモンスターであればイグラスたちのサポートも役立つのだが、相手の的が小さいということもあり、下手に戦いに参加すれば決定的なチャンスを潰してしまうかもしれない。


それが直ぐに解ったからこそ、残りのリザードマンを倒し終えたイグラスたちは大人しく周囲の警戒に努めた。


「…………ッ!!!」


「安心しろ。お前の相手は俺だ」


リザードマンジェネラルは事前にスカーレットリザードマンと強敵が見つかった場合、絶対に一人でその敵と戦うと決めていた。


相手が複数であれば話は別だが、スカーレットリザードマンに襲い掛かった冒険者はティールのみ。

この状況では事前に決めた約束として、リザードマンジェネラルはティールとスカーレットリザードマンの戦いに参加してはならない。


しかしリザードマンジェネラルも強者との戦いを求める戦闘マニア。

直ぐ近くで闘争心が噴火してしまいそうな戦いを見せられ、我慢出来る筈がない。


さすがにそろそろ我慢の限界が来そう……そう思っていた時の、一人の竜人が戦意を撒き散らしながら自分の元に現れた。


「恨みなどはないが、冒険者としてお前を殺す」


「ギィィアアアアアアッ!!!!!!!!」


純粋な戦意をぶつけられ、リザードマンジェネラルの興味は一気にラストへ引き寄せられた。


「はぁ~~~~、ったく。最近のルーキーはどうなってやがる」


「どうこうも……あの二人がずば抜けて強い。ただそれだけの話だろ」


「そうなんだろうけど……だからってそう簡単に納得出来るか?」


「納得出来るかどうかは置いておく。ただ……あの二人の力になれない自分の力の無さが悔しい。それだけだ」


「……同感だな」


ティールとスカーレットリザードマンの戦いと同様に、ラストとリザードマンジェネラルの戦いにCランクの冒険者が割って入れる余地がない。


ラストの身体能力はまだティールに及ばないが、それでもラストには竜人族にしかないスキル、竜気を持つ。

身体能力を向上させるスキルとして、非常に重要なスキルを身体強化と重複して発動。


リザードマンと竜人族。

竜……ドラゴンの血族である故に、リザードマンジェネラルはどこか親近感を感じたが直ぐにその考えを頭から捨てた。


なぜなら……竜気を纏うラストからは、ドラゴンの幻影が見えた。

望むものは強敵との戦いだが、それでもどうせなら生きて勝利を得たい。


そんな思いがジェネラルの動きに現れ、戦いは更に激しさを増す。

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