有無を言わせぬ迫力

(……煽った俺が言うのもあれだけど、本当に頭に血が上りやすいんだな)


イギルはラストに吹き飛ばされたのにも拘わらず、もう一度ティールに殴り掛かろうとした。

そんなイギルを見て呆れた表情をしながらも、ラストはもう一度吹き飛ばそうと動くが、それをティールが静止させた。


(確かに、仲間であるラストに守られるだけってのは、印象的に良くないよな)


そう思ったティールは椅子から立ち上がり、イギルのガラ空きの腹を狙って蹴りをぶち込んだ。


(あっ、ちょっと強過ぎたか?)


ただ力の差を示すために、蹴り飛ばすだけで潰すつもりはなかった。

だが、蹴った感触からして骨に罅が入ったのを感じた。


「ゥブッ!!!」


ラストの時と同じくイギルはテーブルの上から壁をまで吹き飛ばされた。

しかし今回は地面に尻を着くと同時に血反吐を吐いた。


「ガハっ!!!」


「イギル!!!」


仲間が血反吐を吐いたことで、仲間達もさすがに不味いと思いながら駆け寄る。

そして完全にお門違いではあるが、イギルの骨に罅を入れたティールを睨みつけようとしたが、殺気に近い圧を放つラストに怖気づく。


「さて、今の一連の流れで解ったと思うけど二人は今回の討伐に参加するのに相応しい実力を持っている。それは今の現状を見た者たちなら……解るよね」


もうこれ以上文句は言わせないぞ。

そう言いたげなオーラがイグラスから溢れており、ランクがDの者たちはその迫力に圧された。


(……やっぱりちゃんと強いCランクの人だな、イグラスさんは。俺に絡んできたイギルって奴も怯えてる……いや、怯えてはいないか? でも悔し気な表情は浮かべてるな)


まだまだ不満は溜まっているイギルだが、これ以上場を乱す真似はしなかった。


「すまなかったね、ティール君」


「大丈夫ですよ。俺が弱そうに見えるのは仕方ないんで」


自身が同年代と比べて体格が大きくないというのは解っている。

そして年齢が十二歳と、本当に……超若過ぎる。


この集まりの中では完全に一番の若手。

だから、イギルが自分に対して見下ろす様な態度を取るのも理解はしている。


隣に座っているラストも同業者が自分の主にそういった目を向けてしまうのは理解出来るが、我慢ができるかは別問題だった。


「そう言ってくれると助かるよ」


イグラスは誰かしらがティールに絡むことは事前に予測出来ていた。

ただ、ティールの実力を読めない……もしくは不気味さを感じない。

そんな人物ではティールに勝てる訳がない、というのも予測出来ていたので全く心配していなかった。


(イギルも実力はあるんだから、もう少し世渡りを上手く出来たら良いんだけどね)


若手の中でも頭一つ抜けてる存在。

ティールやラストほど飛び抜けてはいないが、冒険者になってからDランクまであがるスピードは中々のもの。


ベテラン達もイギルのことをこれから来る冒険者の一人だと認識している。

だが、この場にいるベテラン達は目の前の状況から今一番注目すべきはティールとラストだと確信した。


「それじゃあ、話し合いを始めようか」


ようやくコボルトとオークの巣の討伐についての話し合いが始まったが、話し合いは一時間程度で終わった。

自己紹介がてらに互いの手札を伝え、討伐の際にどうやって倒していくか。


この際、ティールは当たり前だが奪取≪スナッチ≫に関しては一言も話さなかった。

勿論……ブラッディ―タイガーとの戦い後に手に入れたスキル、再生のことなども話さずに話し合いを見守っていた。


そしてイグラスに意見を求められた際に、遊撃として動きたいという意思を伝えた。

乱戦の中で自分が動きたいように動きたい。

簡単に言えばそういう内容だった。


誰かの指示に従って動くのが苦手ということもあり、これだけは討伐が始まる前に伝えておきたかった。

イグラスやCランクの冒険者たちはその考えを受けいれるつもりだったが、そこでまたイグラスがティールに絡み始めった。


ただ、なんやかんやで当日はティールの希望通りに動けることになり、話し合いは終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る